コミュニケーションの活性化がもたらすものは…

 リモートワークでは「自分は周囲からきちんと見てもらっている」という感覚が薄れがちだ。対人関係の違和感や孤独感がメンタル不調をもたらし、離職に追い込まれてしまう人も少なくないだろう。一方で、多人数に向けた社内広報を徹底し、社員のコミュニケーションを促進することは、決して容易ではないが、呉さんが尽力している根底には、自身の経験に根ざした思いがある。

 弊社は、コロナ禍で社員数が一気に増えました。でも、基本的にリモートワークなので、お互いの顔も名前も分からない。「さすがにそれはまずい」と、みんなの出社頻度が上がったのですが、私は3人の子どもが小さいので、リモートワーク中心になりました。しかし、リモートワークは自分の仕事の成否が見えづらく、孤立感を覚え、気持ちがマイナスな方向に傾いてしまったのです。私自身がそうした経験をしたので、リモートワークで働くメンバーをひとりぼっちにさせたくない思いがあります。

 ただ一方で、みんなが広報の発信を見たり聞いたりしてくれるのを当たり前だと思わないようにしています。仕事の状況によっては、広報からの発信を気にしていられないときもありますから。「みんなが興味を持ってくれるわけではない」という前提のもと、発信内容に向き合ってもらえる工夫をする――それが私には大切だと思っています。

法人向け健康管理ソリューションサービス「Carely」は企業が主体の「働くひとの健康」づくりを専門家とテクノロジーの力でサポートしている。ツールによる人事労務の健康管理業務等、実作業への効率化支援だけでなく、課題抽出・分析・施策立案・運用など、一気通貫型で伴走し、経営戦略を後押しする。法人向け健康管理ソリューションサービス「Carely」は企業が主体の「働くひとの健康」づくりを専門家とテクノロジーの力でサポートしている。ツールによる人事労務の健康管理業務等、実作業への効率化支援だけでなく、課題抽出・分析・施策立案・運用など、一気通貫型で伴走し、経営戦略を後押しする。

 社員の専門性も価値観も多様なiCAREにおいて、呉さんは何を発信するにせよ、常に一人ひとりの声にリスペクトを示してきた。その背景には、リモートワーク時の思いに加え、ミャンマーでの子育てを通して感じたことや幼少期から続く“自己アイデンティティ”への内省がある。

 私は在日韓国人3世として、子どもの頃から自分のアイデンティティに悩んできました。両親も私も日本生まれなのですが、日本社会ではエスニックマイノリティととらえられます。複雑な思いを抱えていたからこそ、もっと視野を広げたいと考え、学生時代に移民大国であるカナダに留学しました。カナダでは、個が多様であることでコミュニティが成り立っています。その様子に感動して、私もライフテーマとして、多様な個の“らしい”選択を後押しすることに取り組んでいこうと思ったのです。そうして、日本の定住外国人の子どもの支援や東日本大震災の被災地の子どもの支援などに携わったりもし、現在の広報の仕事を通じて、働く人の価値観の多様さにも改めて気づきました。社会では、人々の価値観の相違が摩擦を起こすこともありますが、コミュニケーションが活性化することで、個を尊重し合う空気が生まれたらいい。そして、その空気が、仕事や家庭生活に悩む人の心に寄り添い、そっと勇気づけることもあると、私は思っています。