慶応義塾高等学校野球部の森林貴彦監督慶応義塾高等学校野球部の森林貴彦監督(撮影:丸毛透)

今夏の甲子園で107年ぶりの優勝を成し遂げた慶応義塾高等学校野球部。「髪型自由」「長時間練習なし」など、これまでの高校野球の常識を覆す指導方針を掲げて目標を達成した森林貴彦監督に、パーパス・ブランディングで知られるコンサルティング会社エスエムオー社長の齊藤三希子氏が、組織作りのあり方などを聞いた。(構成/サイエンスライター 川口友万)

「究極のエンジョイ」だった
仙台育英との決勝戦

――慶応義塾高校野球部は部員が100人以上、コーチも10人以上という大きな組織です。今回107年ぶりの優勝へと導かれたわけですが、優勝のコメントで「エンジョイ・ベースボールの真髄です」とおっしゃられていたのは印象的でした。

森林(以下、同):エンジョイ・ベースボールというのは、慶応義塾野球部には、底流として流れています。楽しい野球と訳されると「勝っても負けても楽しくやれればいい」という意味になってしまいますが、そうじゃない。今回、甲子園決勝では仙台育英とやりましたが、あれは最高のエンジョイなわけです。

 より高いレベルで野球をやろう、そのためには一人ひとりもチームも強くならないといけない、それによって県大会より関東大会、関東大会より全国大会と高いステージで高いレベルの相手と試合ができる、それこそが野球をエンジョイしている状態なんだと。

 より高いレベルを目指してより高い野球をやろうと。それには地味で辛い積み重ねが必要なんです。ただ楽しむ野球じゃない、辛いことを乗り越えてこそエンジョイできる。

 決勝戦では「勝ちたい」という気持ちの一方で、この瞬間にこの舞台で最高の相手と野球をしている、それを味わっている、ずっと野球をやっていたいという感じでしたね。もちろん勝ちたいんですが、仙台育英という良いチームを相手に、3年生たちは最後の試合をしていて、でもこのチームで戦うことはこの試合で終わりかと思うと、ずっとやっていたいな、ずっと野球をやっていたいなという感覚がありましたね。極上の体験というか、究極のエンジョイの気分を味わいましたね。