「日本一」という目標の
先にあった優勝の「目的」

――監督は野球部が新しい挑戦をすることで新しいベースボール、新しい高校野球の形を実現したいとおっしゃっていましたが、そのあたりはどうなのでしょうか。

 私は高校野球の半分は好きなんですが、半分は嫌いなんですね。

 高校野球という枠の中で勝ち負けを争うのではなく、枠自体を広げたり枠の形を変えたりする仕事をしたいと思っていました。

 とはいえ、こうしたことは勝ってこそ言えることなので、日本一を成し遂げたことは大きいですね。部員達にも「うちが勝てば高校野球は変わるぞ」という話はずっとしてきました。

 今年の部員はそういうところをわかってくれたのか、キャプテンの大村(昊澄・そらと)は「高校野球を変えましょう」と言ってくれた。「高校生がそんなこと言うか?」みたいな驚きもあったのですが、ともかく自分の思いを選手と共有できたのが大きかったと思います。

――高校生が、高校野球という大きな枠を考えるのは難しいと思いますが、そこにはどういう指導があったのでしょうか?

 高校野球部の多くは「日本一」が最終目標だと思います。しかし、私たちは日本一になることで、高校野球を変えることや常識を覆すことができると思っていました。「目標」は慶応日本一だったんですが、その先には「何のために自分たちはいるのか?」という「目的」があった。

 それで1年ぐらい前に大村を中心に選手ミーティングで目的として決めたのが、「常識を覆す」と「恩返し」です。高校野球を変え、今まで支えてきてくれた人に恩返しをする、それが日本一の先にある目的だと選手たちと定めた。今回の優勝で、そうしたことが実ったのかなと思います。

――慶應義塾の目的は、社会の先導者を育てる、先導者たれということかと思います。

 私自身、そういう目的を持って指導していますし、部員たちも一人ひとり、そうした意識を持っていると思います。