労働基準法が施行された時点では、なお職業紹介法とそれに基づく労務供給事業規則が生きており、従って派出婦会は全く合法的な事業でした。同時に施行された労働基準法と労働基準法施行規則は一体として、「家事使用人は労働基準法の適用除外だけれども、派出婦は労働基準法の適用対象である」という認識を明白に示しているのです。

 この事態が少し変わったのは、同じ1947年の12月1日に職業安定法が施行され、翌1948年2月末を以て労働者供給事業が(労働組合以外は)すべて禁止されたことです。これにより、派出婦会というのは違法の事業となってしまいました。しかしながら、当該事業が違法であることは、当該事業で働く労働者に労働基準法が適用されることに何ら影響を及ぼすものではありませんでした。

誰も逆らえないGHQの意向
生き残るために「仮面」を被る

 家政婦が家事使用人になってしまった理由は、派出婦会が違法の存在になってしまったことを受けて、その法律上の位置づけを変えてしまったからです。労働者供給事業ではなく、有料職業紹介事業だということにして、その生き残りを図ったのです。

 本来、労働者供給事業と有料職業紹介事業はそのビジネスモデルが異なります。労働者供給事業とは、供給元事業者が所属労働者を自分の手許に置いておいて、注文がある都度、その労働者を供給先に供給=派出=派遣して、その料金を受け取り、そこから労働者への賃金を支払う仕組みです。今日の登録型労働者派遣事業に当たると考えればほぼ間違いはないでしょう。

 それに対して、有料職業紹介事業とは、求職者を求人者に紹介して、うまく就職すれば手数料を受け取る仕組みです。労働市場の仲介ビジネスという点では類似の事業ではありますが、ビジネスモデルとしては明確に異なるものです。

 最大の違いは有料職業紹介事業者が求職者と求人者の間を斡旋するだけの第三者にすぎないのに対して、労働者供給事業者は供給労働者に対して一定の支配力を行使する存在であるということです。

 それゆえ、施行時の労働基準法は、供給業者である派出婦会を労働基準法上の使用者であると規定したのですし、1985年の労働者派遣法によりそれまで禁止されていた労働者供給事業が労働者派遣事業として解禁された時に、派遣元事業者が使用者責任を負うという法制度が設計されたのです。