2021年、政府の意を受けたJERA(東京電力と中部電力の合弁会社)は、カタールとの年間550万トンにおよぶLNG調達契約を延長せず、打ち切った。以来、日が経つにつれて、化石燃料を再生エネが代替するバラ色の未来は誰の目から見てもあせ始めている。LNGの長期契約を軽視する日本のエネルギー戦略には、再考が必要だろう。本稿は、坂口孝則『買い負ける日本』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。
カタールW杯に熱狂した日本人は
カタールの本当の価値を知らない
昨年、カタールで開催されたサッカーのワールドカップは日本国民を熱狂させた。11月23日のドイツ戦は22時から、スペイン戦は12月2日の4時からのキックオフで、私は自宅で観ていた。日本のゴール時には私のマンションに歓声が響いた。スペイン戦では視聴率が約29%と異常値となり、ABEMAの視聴数も2000万を超えた。あの瞬間はたしかに日本中が熱狂していた。
ただ、多くの日本人にとってカタールは馴染みがないらしく、カタール紹介の特集が組まれた。しかしエネルギー調達に関わる人にすればカタールは最重要国の一つだ。日本人がエネルギー調達先として熱狂した対象でもあった。ある関係者は「おおげさにいえば、カタール発展を形作ったのは日本ともいえる」と語る。やや大げさなきらいのある言葉だが、実際に欧米が資本回収の観点から躊躇するなか、日本は官民をあげてカタールのLNG開発に注力してきた。LNGとは天然ガスを冷却し液化したものだ。
中部電力がカタールガスと長期契約を締結したのは1992年、カタールガスが日本の電力会社・ガス会社向けに供給を開始したのは1997年だった。その後、欧米勢が加わり輸出量が増加。カタールは経済発展を成し遂げた。カタールの発展は日本のおかげ、とは言いすぎだろうが、功労者の一国であるのは間違いない。東日本大震災の直後にはカタールガスのCEOが来日し、莫大な追加対日輸出を約束してくれた。
現在、日本のLNG調達国トップ5は、オーストラリア(35.8%)、マレーシア(13.7%)、カタール(12.2%)、米国(9.5%)、ロシア(8.6%)となっている。ロシアからの調達が不透明ななか、カタールの重要性は高い。
鉱物性燃料とは、原油、液化天然ガス、石炭、石油製品、LPG等を指す。よく知られている通り、日本は非燃料国家だから、外国に頼るしかない。
ところで、そのなかでもとくにLNGを取り上げる理由をこれから述べる。その理由は日本の「買い負け」を象徴しているように見えるのだ。
原稿執筆時点では日本の電力政策は原子力発電の再開に向けて進んでいるように見える。ただし、まだ不透明さが多い。2021年度、電気事業者の発電電力量では原子力が全体の7.8%にすぎなかった。水力は9.9%で、風力・太陽光等の新エネルギーが6.3%。大半は火力発電の78.9%となっている(資源エネルギー庁の計算によりバイオマス発電等が再計上されているため合計が100%にならない)。