さらに火力発電の大半はLNGが占める。このLNGが日本の命運を握る。もともとLNGの冷却液化技術は日本特有のものだった。1969年、ガス田から液化基地を経てアラスカからLNG船で日本に運ぶ。それはエネルギー調達のイノベーションだった。化石燃料のなかでもっとも二酸化炭素排出量が少なく、硫黄や窒素もさほど含まないLNGは公害解決策としても期待された。1970年代にはオイルショックが生じ日本社会を混乱に陥れた。石油に代わるエネルギーとして期待するのは当然だった。

 変換点は2006年、中国がLNG輸入国に名乗りを上げた。そして2021年、中国はついに輸入量で日本を抜いた。ここでもLNG調達に中国が立ちはだかる。さらにロシアから天然ガスを買えなくなった欧州の国々が殺到した。インドもそこに加わる。

2030年にLNG購入を大幅に減らすと
バカ正直に公言してしまった日本政府

 ところが日本は2021年に、2030年度の電源構成の基本計画を発表した。“ところが”と書いたのは、その電源構成ではLNGの比率が低下していたためだ。2019年度に37%程度が、2030年度には20%程度に減少していた。さらに電力需要も減るとした。

 もっともこれはLNG調達不足への対策の意味があったし、さらに非化石燃料を使用拡大する意図があった。LNGを使い続けることへの批判もある。ただ現実的なエネルギー源としてLNGは存在する。日本は世界に向けてLNG需要が減ると宣言したのだ。

 単純に考えて、これから需要が伸びる他国と、需要が減少する日本と、どちらに食指が動くだろうか。国内の有識者のなかでも異論があった。

 総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(第48回会合)で興味深い議事録が残っている(以下、肩書はいずれも当時)。三井住友銀行の工藤禎子さん(取締役専務執行役員)は「エネルギー計画の発表を受けて、日本がLNGを減らすのではないかという報道もされておりまして、これまで積み上げてきたLNG調達のポジションを失い、量、費用の面で影響が出て、最終的にガス、電力の安価な提供に支障が出ることも懸念されます」と述べている。

 さらに東京工業大学の柏木孝夫さん(特命教授)は景気の浮上や再生エネルギーが目論見通りにならなかった場合に備え「天然ガスにシフトしていく可能性がありますので、こういうことを資源外交の観点から、スムーズに安定供給ができるような記述が必要だと思います」と述べた。