2000年代に入って、ようやく膵臓がんに有効な複数の抗がん剤が開発されて使用できるようになってきました。副作用が比較的軽く済むものもあり、患者さんが通常の生活を維持しながら、長期間にわたって抗がん剤治療を受けることも可能になってきました。
そのため、全体の5年生存率も徐々に高くなってきています。
隠れているがん細胞を
徹底的にやっつけておく
仮に、膵臓手術を手掛ける外科医が、ステージ1の膵臓がんの切除後に再発を起こした患者さんから詰問口調でこう問われたとしましょう。
「先生、前に手術したとき、がんを根治的に取ったんですよね。それなのに、どうして再発するんですか」
その外科医が、事実を正しく説明しようとするなら、こう答えるでしょう。
「それは、目に見えないがん細胞が、他の離れたところに飛んでいって隠れていたからなんです。その隠れていたやつらが再び暴れ出して再発してしまったんです」──と。
しかし、科学的マインドを持った患者さんなら、こう言い返すかもしれません。
「それじゃあ、根治的に取ったっていうのは、先生の勘違いだったんですね」
そうなんです。まさしく外科医の勘違いです。
手術で膵臓がんを切除できてもステージ1では30~40%、ステージ2では70~85%の患者さんが「再発」しているというのが事実です。にもかかわらず、見た目で膵臓がんを全部取りきったから、「根治」できたと思うのは、勘違いとしか言いようがないと、私は思います。もしも、手術直後に「根治的に取れた可能性が高いです」とやや控えめに説明していれば、勘違いではなく、「読み違いでした」くらいの言い訳はできるかもしれません。
いずれにしても、手術で痛い思いをする患者さんにしてみれば、少しでも根治できる確率が高い状態で手術を受ける方法があるのなら、そうしてほしいはずです。
先にも述べたように、ステージ1以上の膵臓がんは早く取ればよいというものではありません。抗がん剤をはじめとした他の治療法を組み合わせながら、じっくり時間をかけて相手がどういう態度を示すのか見極めながら治していくことで、根治できる可能性を上げるのが賢い方法なのです。