パラレルキャリアの定義と副業・複業との違い

 私自身がパラレルキャリアの研究に着手したのは2016年です。55歳の時に社会人大学院のカウンセリングコースでの“学び直し”に取り組みました。その際の修士論文のテーマとしてパラレルキャリアを選択しました。パラレルキャリアの実態を調査するにあたって、定義が曖昧だと調査結果が不正確なものとなります。パラレルキャリアの先行研究がなかったこともあって、定義付けから始めました。さまざまな定義が存在する「キャリアの定義」の共通項をベースに、私は次のようにパラレルキャリアを定義しました。

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年齢や性別を問わず、本業として勤務・所属している組織での仕事(メインキャリア)とは別に、長期的・将来的な展望や方向性を持って、自分の意思で能動的に実践し続けている、ある程度の期間、持続された、人との交流を伴う仕事や活動・役割
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 ポイントは、「長期的・将来的な展望や方向性を持つ」という点と「自分の意思で能動的に実践し続けている」という点です。したがって、上司からの指示で1日限りのセミナーに出席してもパラレルキャリアとはいえません。自分の意思ではないし、継続性もないからです。一方、自費で定時後や週末に通う社会人大学院の場合は、自分の意思ですし、継続性もあるためパラレルキャリアといえます。

 では、副業との違いは何でしょうか? 本業以外のもう一つの仕事や活動という点では共通していますが、副業は、対価を得ることが前提条件となるのに対して、パラレルキャリアは、収入の有無は問いません。さらに言うと、本業を持ちながら大学院に通うというように、収入を得るどころか費用が発生するケースもあります。このようにパラレルキャリアは原則として副業よりも広い概念といえます。

 また、「複業」という言葉も近年よく使われています。原則、副業同様に「収入を要件とする」と考えられますが、対価を得ないケースも含んでいることが見受けられます。その場合、パラレルキャリアと似た概念となります。しかし、さすがに社会人大学院での勉強は含まないでしょう。また、パラレルキャリアや副業が本業の存在を前提としているのに対して、「複業」の場合、すべてが並列的なニュアンスが強く、現在の所属組織への貢献というよりは、個人の豊かさの追求やリスク管理のためのポートフォリオの拡大的な意味合いを感じます。さまざまな仕事を請け負っているフリーランスの場合に、「パラレルキャリア」というよりも、この「複業」という言葉がしっくりくるでしょう。