最近の物価上昇、賃金上昇のいずれも、わが国の経済の実力=潜在成長率が高まり、需要が拡大してモノやサービスの価格が上昇したわけではない。デフレ脱却の兆しがあり、賃金も上昇したことは確かだが、それを単純に喜ぶことはできない。円安と資源や食料価格の上昇はいつまで続くのか。日本経済の「実力」向上に必要な条件とは?(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
“とりあえず”デフレからは脱しているが…
足元のわが国経済は、“とりあえず”デフレから脱しつつある。賃金を引き上げる企業も徐々に増え、2023年の春闘は約30年ぶりの賃上げを実現した。これは歓迎すべきことだ。
一方で、物価上昇を単純に喜んでもいられない。というのも、最近の物価上昇は需要の増加に支えられているわけではない。原油などのエネルギー資源や食料などの世界的な価格上昇と、円安の影響による部分が大きい。わが国の経済の実力(潜在成長率)が高まり、需要が増加してインフレになりつつあるわけではない。
賃金の上昇は、人口減少・高齢化などによって労働人口が減少して人手不足が起きていることが大きい。企業は、人員を確保するために、やむを得ず賃金を上げざるを得なくなった。企業の業績が拡大し、前向きな形で賃金が増えたとは言い難い。
問題は、資源価格の上昇や人手不足による、物価や賃金の上昇が今後も続くかどうかだ。中東の緊迫化もあり、世界的にエネルギー資源や食料の価格が高止まりするだろう。また、急速に円高が進むことも考えにくいので、コストプッシュインフレ圧力は続き、国内経済の縮小均衡懸念が一段と上昇することが想定される。こうした状況が続くと、企業のコストアップ要因が増し、賃金上昇を続けることは難しい。
わが国経済の生産性を引き上げない限り、賃金上昇と物価の緩やかな上昇の循環を続けることは不可能だ。