日本経済の「実力」向上に必要な条件とは

 今後、企業は事業運営に必要な人員を確保するために、これまで以上に賃金を積み増さなければならない。問題は、賃金上昇を吸収できるだけの収益増加が実現するか否かだ。

 労働分配率が上昇する一方、資本の分配率が低下すれば、GDP(国内総生産)の成長は難しくなる。企業にとって資材調達コスト、物流コストも増えるだろう。人口減少によって経済は縮小均衡に向かう可能性が高い。

 労働の供給制約が顕在化する環境下、企業は生産性を上げない限り、収益を増やすのは難しい。具体的な方策として、労働力不足を補うための省人化投資がある。すでに進んでいるが、工場や物流施設での産業用ロボットの導入、人工知能を用いたより効率的なオペレーションの策定などをさらに強化すべきだ。

 また、再エネ由来の電力供給体制の強化や省エネの技術革新、行政のデジタル化、食料自給率の引き上げも待ったなしだ。いずれも長らく指摘されてきた問題であり、今こそ国全体で真正面から取り組み、経済運営の効率性を高めないと、コストプッシュ型の物価上昇を克服することは難しい。

 また、わが国企業にとって、高付加価値な最終商品を世に送り出すことも欠かせない。23年上半期、中国はわが国を追い抜き、世界最大の自動車輸出国になった。中国の電気自動車メーカーBYD、あるいは米テスラの成長が目覚ましいことは言うまでもない。

 わが国は自動車に続く成長産業を育成しなければならない。容易なことではないが、かつてのソニー「ウォークマン」のように、世界をあっと驚かせる新しいモノを創造できれば、わが国の企業の競争力は高まる。それにより生産性は飛躍的に高まり、経済成長も促進される。

 繰り返すが、わが国は生産性を引き上げ、経済成長率を促進しなければならない。根源的な問題の解決が進まない中、デフレ脱却、賃上げ機運が高まったと歓迎している場合ではない。