経理部長はお見通しだった
「3億円の融資提案」の魂胆

 支店に戻り、喉から手が出るほど欲しかった資料の分析を行う。嫌だと感じる作業は何日も費やしてしまうものだが、ワクワクする仕事だと時間を忘れて没頭してしまう。幸い目立った問題は見つからず、財務内容良好であることが疎明でき、追加指示もなくすんなり3億円が決裁となった。

 融資が決まると、私の出る幕はなかった。課長が支店長を連れて、自分の手柄のようにしっぽを振って社長に会いに行った。ここまであからさまだと、怒りを通り越して滑稽にしか見えなかった。

書影『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)
目黒冬弥 著

 そして、夕方の報告会。全くリスクを取ろうとしなかった支店長が、まるで自分のサイフから金を貸す話のように言った。

「黛オートの社長はあんな風体だから、すぐにでも3億借りると思ったけど、借りないってよ。1億だとさ。せっかく本部審査部の決裁を取ったのにな」

 3億円を提案した支店長の魂胆は、経理部長が全てお見通しだった。顧客と銀行の関係であろうと、生身の人と人の信頼関係がそこにある。私にとっては忘れられないエピソードになった。

 この銀行に勤務し、悲喜こもごもあった。恵まれない環境でも、私は人に恵まれた時があった。今日もこの銀行に感謝しながら働いている。

(現役行員 目黒冬弥)