バーガーショップで聞いた
「内紛のうわさ」の真相

 経理部長がレターパックを小脇に抱えながらやって来た。私は何度も何度も礼を言いながら、丁重に黒カバンへ入れた。

「大事に扱ってな。さっきは悪かったわ。つい古巣の癖が出てしもた。新しい銀行を参入させへんようにしてる私の立場に免じて許してもらえんか。本当言うたら、目黒さんがうらやましかってん。訪問介護事業者をぶち込んできたのはたまげたわ。なんだか現役時代を思い出したわ」

 経理部長は別人のような笑顔になり、さらに続けた。

「最近の若い担当者は、頼んだことしかせえへん。頼まれとらんことはせえへん。そんなんばかりでつまらんこと、つまらんこと。何か他に必要な資料があれば、相談してな」

 私は既に若くなく、30代半ばに差し掛かっていた。そして、2年間、黛オートで“ストッパー”になっていた経理部長まで味方にできた。新規開拓担当になって、こんな経験はなかなかなかった。

 支店に戻った。資料の件を報告する。課長は目を丸くして驚いていたが、約束の12時半が迫っていて、詳しく説明している余裕などなかった。

 支店を飛び出すと、路上にペパーミント色の派手なアメリカ製オープンカーが止まっていた。全長6メートル。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に出てきそうだ。助手席に乗り込む。シートベルトの締め方が分からない。社長が私を助けてくれる。

「驚きました?この車は僕の道楽ですよ。目黒さん、好き嫌いはないですか?おいしいバーガーショップがあって、予約したんです」

「ありがとうございます。すっごい車ですね」

「50年以上たってる車って、なかなか部品が手に入らへんのですよ。でも、人を乗せるときだけはこれやないとあかんので」

 国道沿いのバーガーショップは、平日の昼間からハーレーやアメ車でいっぱいだった。ドアを開けると、大音量のロカビリーが我々を迎えた。

 そんな中で、会話は思いがけない方向に進んだ。それは、これまでの黛オートの歴史だった。なぜそんな話になったのだろう。社長と先代の社長、そして先代の息子と娘。「内紛」とやゆされるうわさの真相であり、しかも、かなり昔に解決していた。

 私に胸襟を開いてくれたのは、半分以上は社長の人柄ゆえだとは思うが、フレンチや懐石料理を食べながらでは聞けなかっただろう。ハンバーガーにフライドポテトに瓶のコーラで乾杯し、ジュークボックスでプレスリーが絶叫する店だからこそ、肩肘張らず大声で忌憚なく話ができた。心を開けたのだと思う。