無理な要求に対する
社長からの予想外の言葉

「社長、融資の件ですが、実はまだ審査が下りてません。今日は御社に資料をお願いに参りました。ふたつございまして、ひとつは店舗別採算の推移。もうひとつは在庫車両の明細になります」

 お茶を飲もうとした社長と経理部長の手が止まる。私は説明を行った。真っ先に経理部長が言い放った。

「やめましょ!そんな重要な資料、私がおった銀行にさえ開示しとらんですよ。本部審査部に稟議でも上げとるんか?おたくの支店長の無担保融資の限度額って、そんな鼻くそみたいな金額なんか?」

 競合メガバンクの大規模店支店長を3店舗も歴任しただけはある。本部審査部から資料を要求されている事情までお見通しだ。機関銃のようにまくし立てられた言葉の全てが図星。ぐうの音も出なかった。

 役に立ち、頼りになる銀行だと私が必死にアピールし、なんとか取引を始めたとしても、内部が動脈硬化していれば真のパートナーになれるはずがない。そんな立場が務まるまでもないのだ。

「出せばええやんか」

 社長が口を開いた。

「先週の営業会議の資料を全部用意せえ」

「しかし、社長!」

「うちは後ろ指を指されるような仕事はしとらんやろ。その本部審査部さんに、うちがどんな会社なのか分かってもろたら、なおさらええやんか。ほんなら経理部長が以前いた銀行は、うちにそんな大きな商売、持ってきてくれたか?僕はな、うちのために頑張ってくれはる人を大事にしたいんや」

 資料を用意するため、経理部長が退出した。思いがけず、資料が手に入ることになった。

「悪く思わんでくださいな。自分がいた銀行が不利になるような話には、大体あんな感じやねん。この後昼メシでも行かへん?そんなご馳走はせんから、かしこまらんでもええよ。お礼したいんや。12時半ぐらいに目黒さんの銀行の前で路駐してるから」