例えば、通勤中の勉強や、音楽を聴きながらの読書。スマホを見ながらの食事。駅のホームからの転落や交通事故を起こす原因として警告されるようになった「歩きスマホ」などもその典型です。

 さらに近年では若い世代の人たちを中心に、「タイパ」(タイムパフォーマンス)という言葉が当たり前のように使われるようになりました。こうした言葉が生み出されること自体、効率重視の価値観が急速に広まっているのを垣間見ることができるでしょう。

 言い換えれば、私たちはもはや「ただ、休む」ということすらできなくなっているのではないでしょうか。「せっかく家族水入らずで旅行に出かけているのに、仕事のことが頭から離れない、心から楽しめない」、そんな声もいたるところから聞かれています。

 ひと言でいえば、現代人は「心ここにあらず」が常態化しているのです。これこそが脳を疲れさせている直接の原因です。

 脳科学(神経科学)的には「心ここにあらずの状態」を「マインドワンダリング」と表現します。心(マインド)がさまよっている(ワンダリング)というわけです。

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 では、どうしたらマインドワンダリングから抜け出せるのでしょう?

 その解決策の1つが、瞑想であり、マインドフルネスです。

 マインドワンダリングが「心ここにあらず」だとするなら、瞑想やマインドフルネスの真髄は「今この瞬間に意識を向ける」ことにあります。マインドワンダリングを止め、脳の疲れを回復させる効果が期待できます。

 マインドフルネスは、米国シリコンバレー発の流行となり、いまやウォール・ストリートでも大ブームとなっています。

 ウォール・ストリートは、情報過多の最前線。そこには「心ここにあらず」になりがちな環境にいながら、人一倍集中もしなければいけない人たちが集まっています。だからこそ、マインドフルネスが求められたのです。