医療においても、米国マサチューセッツ大学医学大学院の名誉教授ジョン・カバットジン博士が、マインドフルネスを医療に導入したことで、その効能が世界中で知られるようになっていきました。うつ、不安障害、PTSDなどの心の病に対する効果が証明されています。

 しかし瞑想と言っても多くの方は難しく感じると思います。そこで、皆さんにご紹介したいのが歩く瞑想(マインドフル・ウォーキング)です。

「歩いてみましょう」と私が申し上げるとき、皆さんにまず心がけてほしいのは、長い時間かけて歩くことでも、美しい景色を楽しむことでもありません。

 はじめのうちは、一定のリズムで「ただ歩く」だけでも、頭がスッキリする効果を実感できると思います。しかし、慣れてきたら「これを意識するだけで効果が数倍になる」というコツを意識してほしいのです。

 それは「足の裏の感覚にしっかり注意を向けて歩くこと」です。

忙しい人でも、隙間時間を使ってできる

 正しい歩き方さえ覚えれば、あとはどんな格好で、どんなルートを歩いてもいいし、疲れたら途中でやめてもまったくかまいません。というのも、マインドフル・ウォーキングは「歩いている足に注意を向けること」それ自体が一番の目的だからです。

 山道を歩いて足が棒のようになり、頂上にたどり着いて、とたんに開けた景色を前に感動して言葉を失った瞬間、さっきまでの悩みがウソみたいに消えてしまう――こういうとき、私たちは過去や未来ではなく「今」だけに集中していますよね。こんな感覚を、いつでもどこでも味わうことができるように、だんだんと心がクリアになっていく。それが、マインドフル・ウォーキングです。

 忙しい生活のなかで、いっとき、歩くことだけを目的に歩こうというと、「忙しくて、そういう優雅な時間はとれないんだってば!」と思われるかもしれませんが、ここでは「あえて時間をムダにする」ことに意味があります。

「できるだけ成果に直結することをしたい」「ただボーッとしているなんて時間のムダ」――そんな強迫観念に駆られている人が、現代にはとても多いように思います。

 少しでも空き時間ができればスマホでニュースを読んだり勉強したりと、極力有意義に使おうとする。それがどれだけ大切なことだとしても、「そうしなくてはいけない」という思いに囚らわれると、いつまでも休めず、脳は疲れる一方です。