新制度導入の狙いについて、カウシェ代表取締役の門奈剣平氏は「より多様なライフステージやキャリアステージの方々が、スタートアップへの就職や転職を選択できるようにしたかった」と語る。

「今回のストックオプションの新制度は本来、社外に積極的に発信していくような話ではありません。ですが、多くのスタートアップでは、退職後にストックオプションが失効することが一般的な状況です。それによって、スタートアップをキャリアの選択肢から外すというケースもあるのではないでしょうか。業界全体がストックオプションに関して再考するきっかけになればと思い、今回、新制度について対外的に情報発信することにしました」(門奈氏)

メルカリも導入したインセンティブ制度「RSU」とは

日本で進む信託型ストックオプション制度だが、土岐氏いわく、米国ではGAFAのような巨大テック企業を筆頭に、RSU(譲渡制限株式ユニット:Restricted Stock Units)という制度が一般的になってきているという。

ストックオプションは、新株予約権という権利を得て、権利行使することで株を安価で取得できる制度だ。一方、RSUでは権利ではなく、生株を獲得できる。RSUには権利行使という概念がないため、権利確定時の株価が、そのまま従業員のメリットとなる。

だが、企業側には生株をすぐに売却されてしまうリスクがあるため、通常は3年もしくは5年の譲渡制限が設けられている。従業員は譲渡制限が解除された時に、株を売却することが可能となる。

RSUが普及する理由について、土岐氏は「米国では人材獲得競争が激化しているため、企業は優秀な人材を獲得する上で、従業員にとってのメリットを高める必要があるからです」と説明する。

フリマアプリの「メルカリ」を展開するメルカリも、RSUを導入する企業の1つだ。同社は2018年12月にRSUを導入した。だが、2021年3月以降はRSUの対象を海外の従業員に限定し、国内従業員向けには新たなストックオプション制度を導入した。

メルカリの広報責任者によると、RSUでは株式交付時に新株発行という形式をとるため、社内にインサイダー情報があるタイミングでは発行できないという課題があったという。規模拡大に伴いインサイダー情報の発生頻度も増加していく中で、同社では、よりスムーズに株式を国内従業員にも渡せる方法を模索。同時に人事評価制度の見直しで、株式インセンティブを渡す社員の対象範囲の縮小も検討していた。