目先の売上、利益を得たところで、根本的には小売業界のデジタル化は進まない。100億円、200億円のお金を投資して、より大きな市場をつくっていくしかないわけです。

サイバーエージェント代表取締役の藤田晋さんが麻雀について、「みんなで水を張った洗面器に顔を突っ込み、最後まで苦しみながら耐え抜いて、洗面器から顔を上げなかった人が勝つ」といった内容のことを話していました。

自分はすごくこの話が好きです。利益が出ないなら、利益が出るまでやればいいという話じゃないですか。正直、直近の利益はわからないですが、10年後にトップでいるためには大胆なリスクを取るべきだと思います。

 

──このビジネススキームを構築するにあたり、参考にした事例はあるのでしょうか。

堀江:創業期にdelyに投資してくれたALL STAR SAAS FUNDのマネージングパートナー・前田ヒロさんがInstacartに投資していたこともあり、Instacartの動向は常に注視してきました。

彼らはリスクをとって費用を払い、集客し、配達員を集めて、小売業をデジタル化することで、グロサリーデリバリーの市場をつくってきました。多分、向こう5年ぐらいは利益は出ないと思いますが、日本では自分たちがその役割を担わないといけない。

例えば、今ではキャッシュレスサービスも一般化しましたが、それはPayPayが100億円以上のお金をかけて投資した結果、市場が出来上がっていったのだと思います。大胆にリスクをとった結果、キャッシュレス決済は浸透し、今ではPayPay自体も事業的にうまくいきそうな雰囲気が出てきましたよね。それと同じことをやるだけです。

創業初期のデリバリーサービスで辛酸を舐めた経験をバネに

──delyの創業期の事業はフードデリバリーです。

大竹:(サービスとしてはクラシルで知られていますが)ここまで社名を変えなかったのも「またどこかでデリバリー事業をやるかもしれない」という思いがあったからです。当時は資本力も含めて全く歯が立たなかったわけですが、今はグロサリーデリバリーの市場をつくるために勝負に打って出ていけるだけの会社の体制も資本もあります。そのあたりは当時と今の大きな違いです。

堀江:事業自体は撤退しましたが、その後フードデリバリー自体は世の中に浸透していった。当時、自分がレストランに資料を持ってプレゼンしに行っても理解されず、誰からも「よくわからない」「そんなの無理だよ」と言われ続けました。しかし、実際はすごく便利で、今やフードデリバリー抜きの生活なんて考えられなくなりつつある。