むしろ、私たちが「そうした要望にどれだけ早く対応できるか」が今後はより重要になってきます。今の対応エリアは東京都内3区のみですが、対応エリアが広い方がサービスの価値も増していくので、多くの小売企業と連携し、対応エリアは順次拡大していきたいです。

21年3月期の決算が好調、デリバリーは成長へのさらなる一手

──クラシルデリバリーもシステム開発費用や運用費用、配送費用も無料と小売企業からほとんどお金をとっていません。dely側の負担も大きいのではないでしょうか

堀江:このモデルは(開発費用や配送費用をとらないため)ほとんど儲からないので、delyの負担も大きいです。ただし、誰かがそれくらいのリスクをとらなければ、小売業界のDX(デジタル・トランスフォーメーション)は実現しない、と個人的には思っています。

小売企業の多くは「デジタル化したいけど、どうアプローチをしていいかわからないし、予算もない」ということを口にしているわけです。そうした課題に対して、“小売版Yappli”のような形で費用をとって、企業ごとのアプリ開発する選択肢も考えました。その道の方が儲けることもできるし、黒字化するまでの時間も短く済みます(編集注:Yappliはノーコードでスマホアプリを開発できる、ヤプリ社が提供するプラットフォーム)。

実際、10Xはネットスーパーの立ち上げを包括的にサポートする「Stailer」の提供を通じて利益を生み出しています。それはそれでひとつの道です。10Xのような存在があることでマーケットへの期待値も上がるし、マーケットへの理解も深まる。小売業界のデジタル化という切り口でさまざまなプレイヤーが生まれることは大歓迎です。

ただ、個別にアプリを開発するだけではく、こちらが費用を負担するなど一定のリスクをとって小売企業のデジタル化をサポートすることで、小売業界全体のデジタル化のスピードを加速させていけると思ったんです。

delyはレシピ動画事業、電子チラシ事業が好調に推移しており、2021年3月期の最終利益は19億4800万円となっています。きちんと利益を出せる体制になってきたからこそ、このタイミングでリスクをとって、デリバリー領域までやることに決めました。

振り返ってみると、2年前に「無料」で提供するという意思決定を下したのは良い判断だったと思います。もちろん利益は出ないのですが、ここでお金をとってしまっていたら、企業側の言いなりになって受託開発を続けていた。お金をとらなかったからこそ、対等なパートナーとして小売業界のデジタル化に必要なことを考え続けられました。