「独立したエコシステム」を目指しスマートニュースと分社化

なぜスマートニュースはニュースアプリのSmartNewsではなく、子会社による別のメディアで調査報道コンテンツを展開するに至ったのか。スマートニュースと会社を分けた理由について、瀬尾氏は「調査報道を扱う以上、独立した存在であることが重要だからです」と説明する。

スローニュース代表取締役の瀬尾傑氏
スローニュース代表取締役の瀬尾傑氏

「Googleは(報道業界とのコラボレーションを推進する)『Google ニュースイニシアティブ』という取り組みを通じて、報道機関に資金提供をしています。我々も同様に、SlowNewsをスマートニュースにおけるCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の取り組みの1つと位置づけることもできました」

「しかし、そうした取り組みがテック企業の中のいち戦略でしかなければ、方針の変更とともに終了してしまう恐れがあります。そのためスローニュースでは分社化しました。独立したエコシステムとして成立し、さまざまな調査報道が誕生する仕組みとなることを目指しています」(瀬尾氏)

スローニュースでは独自の調査報道を生み出すため、創業時より「調査報道支援プログラム」を展開している。同プログラムではスローニュースがメディアやジャーナリストに資金を提供し、制作されたコンテンツをSlowNewsで配信する。支援には、6カ月〜3年までの「期間支援」と、取材テーマごとの「単発支援」の2種類がある。これまでに、取材記者グループ・フロントラインプレスが手がけた『記者逮捕』や、ノンフィクション作家の下山進氏による『原子炉・加速器で癌を治す』といった記事を発表してきた。

新作でなくても読まれる──8年前の新書がヒット

SlowNewsでは大きく分けて3種類のコンテンツを展開する。米新聞社「The New York Times」や英新聞社「The Guardian」などによる世界的なスクープ、岩波書店、KADOKAWA、講談社など8社の出版社による400冊以上の新書、そして、調査報道支援プログラムで連携するジャーナリストやメディアによるオリジナルの調査報道やノンフィクションだ。

ウクライナ情勢からみずほ銀行のシステム障害まで、幅広くさまざまな政治・社会問題を題材としたコンテンツを扱うが、中でも特に読まれているのは「ジェンダー問題を扱うノンフィクションや調査報道」と瀬尾氏は言う。

「岩波書店が出版する、フォトジャーナリスト・林典子さんの『フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳』(編集部注:難民キャンプで暮らす少女や誘拐され結婚を強要された女子大生の姿を記した新書)という本がとても読まれています。2014年の本なので決して新しくはありません。おそらく、岩波書店の新書の棚に並んでいても読まなかったような人たちが、SlowNewsで発見し、反応してくれているのだと思います」