なぜそのようなことが可能なのか。鍵を握るのが「ダークストア」だ。

ダークストアとは配送に特化した実店舗(倉庫)のこと。一般的なスーパーやコンビニのように顧客が来店して買い物をするわけではないため、ダークストアと呼ばれる。クイックコマースサービスでは自社でダークストアを設け、自ら在庫を保有し、そこから注文の入った商品を配送するモデルが主流となっている。

このやり方なら配送拠点が1つのみのため、注文が入ればその場で該当する商品を選び、すぐに配送作業に移ることが可能だ。加えてサービスの対象エリアを拠点周辺の1.5km前後に限定している事業者が多く、こうすることで“10分配達”を実現しているわけだ。

また商品の価格という観点でもダークストアであることの意味が大きい。通常の店舗ほど内装や立地にこだわる必要がなく、レジや接客なども必要ないため店舗運営にかかるコストをおさえやすい。

ダークストアの事業構造はシンプルな小売事業と同じで、店舗を通じて発生した利益によって拠点の運営やサービス開発、配送にかかるコストなどを賄えれば事業として成り立つ。これがサービス利用料(手数料)による収益を軸としたプラットフォーム型のサービスと異なる点だ。

日本のクイックコマースサービスでは商品代金に一律の配送料(200円〜400円ほどが多い)を加えて提供しているものが多いが、安く仕入れ、コストを抑制した上で一定の規模まで拡大できれば、販売価格を小売価格と同等かそれに近い価格帯にしても事業として成長が見込めることになる。

これがプラットフォーム型の買い物代行サービスやデリバリーサービスだとサービス利用料が上乗せされるため、どうしてもユーザーの目線では小売価格よりも高くなりがちだ。Uber Eatsでコンビニの商品を頼んでみるとよくわかるだろう。

ヨーロッパを中心に市場が急速に拡大、複数のユニコーンが誕生

冒頭で触れたように、現在は欧米を中心にクイックコマース関連のプレーヤーが急増している状況だ。

クイックコマースの市場が急速に立ち上がった理由はいくつか考えられるが、日本で2019年からこの領域でサービスを運営してきたクイックゲット代表取締役の平塚登馬氏は「各国でフードデリバリーサービスが浸透し始めたこと」を大きな要因にあげる。

フードデリバリーの利便性を実際に体験する消費者が増える中で「(食事以外にも)いろいろなものを、よりクイックに届けて欲しいというニーズが広がった」というのが同氏の見解だ。