私たちが普段、何も疑わずにモノを買えているのはこの約束が仮想的に適用されているためです。そして市場にモノの存在が認められて初めて価値評価され、流通することになります。たとえばオークションに出品される芸術品は、鑑定士や芸術評論家などの多数の専門家の同意を取り、それが「本物」であると判定されています。この証明を市場が信頼し、オークション会場にいる聴衆の合意によってその場で価格が決まります。

このように私たちの住む物理世界では、いくつもの証明ステップを経た上で市場の約束が形成され、その上で初めて価値が算出され、市場に出回っていきました。「それって本物なの」という市場からの疑問を反証するのに、膨大なコストをかけてきました。

他方、デジタル世界では真贋も市場の約束も通用しませんでした。画像や動画などのデジタルデータは、右クリックをしてコピー&ペーストをしてしまえば、全く同じものが即座に手元に生成されてしまうからです。手元のデータが「本物」であると市場に証明するすべもありませんでした。

そこへ登場したのがNFTであり、ブロックチェーンを応用した技術がもたらした、モノの唯一性を担保する機能です。デジタルデータに「本物」と「コピー」の見定めが付くようになり、コピー品の価値は相対的に下がる契機が生まれたのです。

「このデータはコピーではない」と見分けがつくようになり、誰もが信頼してデータを判別できるようになりました。ある種の市場の共通規格が誕生したことにより、さまざまなデータの取引に「収集性」と「売買性」が伴うようになりました。これにより、冒頭で説明したようなNFTアートの高額取引を私たちは目の当たりにするようになりました。

エピック・モーメントなNFT

NBA Top Shotの公式サイトのスクリーンショット
NBA Top Shotの公式サイトのスクリーンショット

NFTのメリットの1つに「データ信頼性」が挙げられると説明してきましたが、その上でクリエイターにメリットのある3つの新しい価値観が誕生しました。それが「モーメント(歴史価値)」「プロセス(履歴価値)」「スペース(空間価値)」です。まずは「モーメント」から紹介しつつ、NFTが生み出す新しい価値観やユースケースを簡単に考察していきます。

この2〜3年、北米のバスケットボールリーグ「NBA」が展開するNFTデータプラットフォーム「Top Shot」上での売買が盛んに行われるようになりました。有名なバスケットボール選手のダンクシュート動画データなどをNFT化し、高額で売買されています。たとえばレブロン・ジェームズ氏の歴史的なシュートシーンは、40万ドル(4500万円相当)で落札されたそうです。