とはいえ、ものごとには良い面も悪い面もある。輸出企業の競争力が高まることや、海外から外国人観光客がより多く訪日することは、円安のメリットとして挙げられる。それにも関わらず、なぜ今回は円安のデメリットばかりが強調されるのだろうか。

その背景には、2011年前後の円高局面において日本の輸出企業が海外に生産拠点を移してしまったことにより、円安のメリットを従来ほどは享受できなくなっていることがある。また、コロナ禍で入国制限をかけていることから、円安でも外国人観光客が増えないということにより、メリットが薄まっていることもあるだろう。

スタグフレーションの先に待つ絶望

それでは、このスタグフレーションの状況は今後どうなっていくのだろうか。昨年11月の記事のなかで「インフレ懸念は低く、むしろ再びデフレになる可能性が高いといった方が正しいだろう。」と書き、その際は「世界的なインフレ局面でデフレを気にする専門家がいるか?」という厳しいコメントもいただいたが、いまだにその懸念は変わっていない。

いま「悪い円安論」を喧伝するメディアが多い中で、日米の金利差を縮小させて円安の進行を止めるべく日本銀行が金融緩和をやめ、金利を引き上げるとしよう。同時にコロナ禍で拡大した財政赤字を受けて、「2025年度のPB(プライマリーバランス)黒字化」を目標に掲げる政府が増税をしたら何が起こるか。ただでさえ停滞していた日本経済はさらに悪化することになるだろう。

物価が上昇している、円安が進行しているなどの表面的な事象をそのまま受け止めるのではなく、その背景や要因をしっかりと細かく理解しながら、何が対応策として正しいのかを考える。このような思考習慣を身につけることは、経済分析以外の普段のビジネスにおいても良い影響をもたらすであろう。