単なる法人カードではなく企業の「金融OS」を担う

「海外ではBrexやRampらが提供するサービスがスタートアップを中心に普及し、近年はレガシーな法人なども含めて対象ユーザーの広がりを見せており、新たなフェーズに入ってきている」と話すのはUPSIDERの投資家であるWiLパートナーの久保田雅也氏だ。

Brexは2021年に銀行免許を申請したことでも注目を集めたが、海外の先行プレーヤーは法人カードから法人にとっての“金融OS”へと進化しつつある。

「BrexはBrex内のバーチャルな口座の中で決済などを柔軟に行える決済インフラとしての方向、つまり銀行に近い方向へと進んでいくと考えています。企業内のお金の流れを可視化して滑らかにしていくことで、結果的にはBrexのプラットフォームに参加する法人が増えるほど、(Brex内で)外部への送金や決済をよりリアルタイムに、コストが軽い状態で実現できるようになる。そういった可能性を踏まえるとポテンシャルはかなり大きいです」(久保田氏)

法人カードから事業をスタートしたBrexも近年は事業領域の拡張を進める。時価総額は100億ドルを超え、デカコーンの仲間入りも果たした。
Brexのウェブサイトのスクリーンショット。法人カードから事業をスタートしたBrexも近年は事業領域の拡張を進める。時価総額は100億ドルを超え、デカコーンの仲間入りも果たした。

UPSIDERが2021年10月に発表したシリーズBラウンドにはBrexの投資家であるGreenoaks Capitalも新規の株主として参画したが、同社はUPSIDERに限らず“さまざまな地域のBrexのようなプレーヤー”に投資をしている。

法人の支出管理における課題はグローバルで存在するものだが、この領域は国によっても規制や商慣習、文化などが異なることから“ローカル性”が強く、日本を含めて国ごとにスタートアップが生まれている状況だ。

市場の成熟段階も国によって異なるものの、各国の事業者がBrexやRampを追いかけるようなかたちで発展していく可能性もある。久保田氏が「UPSIDERは法人版のチャレンジャーバンクになりうる」と話すのも、このような流れがあるからだ。

もっとも、日本に関しては「BtoB決済のデジタル化」自体がまだまだ進んでいないため、新興の法人カード事業者を中心に市場の拡大に取り組んでいる段階。2023年10月から始まる「インボイス制度」の存在も、日本でこの領域が盛り上がってきた要因の1つだという。

また久保田氏は今後のポイントにエクイティとデット双方における「ファイナンス力(資金調達力)」を挙げる。

直近では米国の金利の上昇などの影響で、スタートアップの資金調達環境もこの数年までと比べると悪化している。法人カード事業は原資も必要なため、BrexやRamp、UPSIDERなどのようにエクイティとデットを組み合わせながら、事業成長に向けて多額の資金を集めているケースも多い。