「私たちは所詮、他人です。人間はパートナーや友達など仲が良くなり、いることが当たり前の存在ほどぞんざいに扱ってしまいがちです。友達ではなく、適度な緊張関係を持ちながら、お互いに尊重しあうこと。たとえば敬語だと怒ろうと思っても、言葉を選ぶし、結果的に丁寧な言い方になるので人間関係も壊れないのです」

全員の結束を大切にするという方針はここでも貫かれている。これだけ勢いのあるベンチャーである。採用情報がアップされれば、そのたびに多くの応募がある。ステップアップや収入アップを目的とした転職、あるいは私が会社を成長させる、といった売り込みも少なくはないだろう。

「私の採用方針ですが、まずは人間関係が大事なので、人格者であることが第一にきます。大切にしているのは、スキルはお金で買えるけど、パッションはお金では買えない、ということです。経歴や実績は大事ではないとはいいませんが、それよりも大事なのは会社への情熱があるか、コミットメントできるかです。会社にいる時間は理念を実現するため全力でかかわってほしいので、それができる人かを見ます。もちろん、採用の過程でうちには朝礼があります、とかラジオ体操をしますといったことはお伝えしますよ」

コミットメントがあるからこそ成長がある

ベンチャー業界では、会社から会社へ渡り歩きながら良く言えばステップアップ、悪く言えば会社の名前で箔を付けるという人々がいる。ともすれば彼らにとって会社とは、せいぜい自己実現の場か自分の経歴をアクセサリーのように飾るものでしかない。

こうした人々に安易に利用されないようにするには、コミットメントこそが大事な視点であり、コミットメントがあるからこそ成長があるという見方は成り立つのだ。むしろ、彼らが危機を乗り越えられた最大の理由は、ルーティンとして理念を確認し合い、人間関係を築いていたことにあった。もし、1人でも別の方向を向いていれば、これだけのスピードで再生の一手は打てなかったかもしれない。

そんな話をすると、田中は大きく頷いた。

ちなみに、合宿後は安い居酒屋で飲み会が開かれる。その時は…….。

「もちろん、誰かを指名して乾杯の音頭をとってもらいますよ」

取り組んでいることは最先端、経営は徹底的に昭和型という田中のスタイルはここでも貫かれているのだった。