特にこの3〜4カ月ほどで増えてきているのが、レイターステージのスタートアップにおける資金調達ニーズだ。安部氏によると感覚的には「1年前と比べて問い合わせが2〜3倍に増えている」という。

「特にシリーズB以降のスタートアップから、冬の時代に備えてエクイティ以外の方法で資金を調達したいという相談が増えました。(日米で上場IT企業の株価が低迷していることなどから)以前に比べてバリエーションがつきづらくなっており、スタートアップ側としても今の段階でバリュエーションを決めたくないという声を聞きます。また何かあった時の保険のような意味合いで、キャッシュの残高を増やしておく目的で(デットを)活用したいというニーズもあります」(安部氏)

このような背景もあり、ベンチャーデットの中でも“エクイティ要素が一切ないもの”を求める企業が一定数存在するとのこと。実際にスタートアップ側から「ワラント(新株予約権)がつくのかどうか」を聞かれることもあるそうだ。

スタートアップ産業を支える法人融資型のチャレンジャーバンク目指す

Fivotは2019年10月の設立。メリルリンチ日本証券出身の安部氏と佐保百合子が共同で立ち上げた。安部氏は投資銀行部門でM&Aのアドバイザリー業務などに従事してきたが、金融法人グループに所属していたこともあり、特に銀行や保険会社など金融機関の顧客と向き合うことが多かったという。

「もともと銀行のビジネスが好きで、配属先も自分で希望しました。日本興業銀行が戦後に重工業へ積極的に融資をして産業の発展を支えたように、銀行は大きなパワーを持っていて、社会にインパクトを与えることができると思っていたんです。ただ(金融機関と)仕事をしていく中で、銀行がその機能や能力を最大限に発揮しきれなくなっているのではないかと感じるようになりました」(安部氏)

そんな状況に苦悩している時に安部氏が出会ったのが、海外で勢いを増していたチャレンジャーバンクだったという。

海外ではスタートアップが新しい金融機関を立ち上げ、柔軟な発想で既存の事業者とは異なるアプローチから金融サービスを展開している。日本でも新しい金融機関が、新たな金融サービスを提供していくことが求められるようになるのではないか──。そのような考えがFivotを立ち上げるきっかけになった。

安部氏が日本のマーケットにおいて課題に感じていたのが「スタートアップ向けのデット(資金を提供する仕組み)だけがぽっかりと空いてしまっている」ことだ。そこでスタートアップに対してデット性の資金を提供できる仕組みを作るべく、法人融資型のチャレンジャーバンクの実現を見据えて事業を始めた。