視点1:「大きなリスクを取って大きく勝つ」スタートアップエコシステムの役割

投資家の立場で見たとき、投資資産の種類(アセットクラス)には、上場企業への投資や債券・不動産など、さまざまなリスク・リターン・プロファイル(どのくらいのリスクを取ってどのくらいのリターンを目指すか)が存在する。

その中でVC投資というのは、業界の構造を変えるイノベーションで急成長を目指すビジネスに対する投資であり、失敗する可能性も高い。さらにファンド運用期間の約10年間は投資がロックアップされ、現金化されないという特殊性もある。つまり性質上、超ハイリスク・ハイリターンなアセットクラスである。

そんな性質を持つ業界に期待される役割とは、「リスクを許容して」、「イノベーションを先導する」ということだ。

1980年代以降、米国の大企業は株主至上資本主義を掲げてきた。結果として、R&D投資がなくなり、大企業は衰退し存在感を失っていった。今振り返ると、これは米国資本主義の大きな凋落(ちょうらく)を特徴付けるトレンドの始まりだった。

大企業が空洞化して、実質的に成長しなくなった代わりに台頭したのが、VC投資を活用して成長するスタートアップエコシステムだ。これは米国の経済にとって非常にラッキーなことだった。大企業が技術開発に投資しなくなった分、10年かけて社会の大変革をもたらす投資がスタートアップに対して行われ、スタートアップエコシステムが大きなイノベーションをけん引することになる。その結果、GoogleやApple、Microsoftといった巨大IT企業、あるいはSpaceXやTeslaのような先進的企業が誕生した。

そして、その変革の裏には死屍累々(ししるいるい)と失敗したスタートアップがある。ほとんどのスタートアップが失敗すると言ってもいい。「業界構造を大きく変えるビジネスを、失敗を恐れず10年かけて行う」というスタートアップへのR&D投資が、エコシステム全体で繰り広げられてきた。

スタートアップが大企業のR&Dと違うのは、起業家がオーナーシップと金銭的インセンティブを持っていること、投資家に評価されないビジネスは資金が尽きて早々に淘汰されること、そしてスタートアップ同士の熾烈(しれつ)な戦いが繰り広げられる、ということ。従来のR&Dとは比べ物にならないほどの生産性とスピードで巨大なイノベーションを起こす、というのがスタートアップエコシステムの役割なのだ。