米国のVC投資がもたらした結果を見れば、そのことがよくわかる。2004年から2014年の間にVCが行った2万1000社への投資のうち、65%はVCにとって損に終わっている。25%が5倍以下のリターンだ。20倍以上の利益をもたらしたのは1.5%、50倍以上は0.4%。VCは20倍、50倍のリターンを出すほんの少数の投資によって、損を取り返し、利益を上げている。ほんの一部の大成功によって、半分以上の失敗を取り返すことが、統計上最初から期待されているわけである。そのためには、「そこそこの成功」を狙うのではなく、常に業界構造を変える大ホームランを狙って投資しなければならない。

結果として、米国では大企業が軒並み苦戦する中、世界規模で革新的なビジネスが次々に誕生した。VCが支援する企業の成長がなければ、米国の経済は惨めなまでに低迷していたはずである。

大企業の低迷は米国以外の先進国でも起こり、各国が米国型のスタートアップエコシステムを立ち上げようと必死に追随した。イスラエルを皮切りに、中国、南米、欧州にと、次々とスタートアップエコシステムが立ち上がってきたのは、ご存じの通りだ。

視点2:早期上場は海外展開による事業拡大の足かせとなる

米国で毎年生まれる新興企業のなかで、VCから資金を調達する企業は、ほんの0.5%程度しかない。それなのに、2019年の時点で米国の上場企業の半分以上がVCが支援した企業であり、時価総額に占める割合は8割近い。上場企業全体のR&D支出のうち、なんと9割近くがVCが支援した企業によるものだ。

米国における上場企業の比較(VCによる支援の有無に基づく)
 

世界で見ても、時価総額上位10社のうち、5社がVC支援企業だ(2022年10月7日時点)。米国だけでなく、世界の経済をVCから出資を受けた会社が引っ張っているといってよい。Microsoft、GoogleやAppleの製品が現代人の日常生活に深く溶け込んでいることからも、それが実感できる。

時価総額上位企業におけるVC支援企業
 

一方、日本の上場企業で上位を占める企業はどうだろうか。上位50位の中でVCが支援したといえる企業の数は、たったの1社のみだ。それも、ソフトバンク(現・ソフトバンクグループ。VC支援企業ではない)と米Yahoo!(VC支援企業。Verizonによる買収を経てAltabaへと再編された後に解散)がジョイントベンチャーとして設立したヤフー(現・Zホールディングス)をカウントした場合である。直接VCから資金調達した会社は、時価総額上位100社の中でもゼロだ。