国内時価総額の上位を占める伝統的大企業の多くが世界で名を知られており、米国のVC支援企業が世界の経済成長をけん引する中、日本のVC支援企業の存在感がここまで小さいのはなぜか。

僕は、日本のスタートアップが上場をゴールとして重視しすぎていることが一因だと思っている。事業ステージの早い段階での上場を求められた結果、事業規模の拡大に苦労しているのではないか。

日本の多くのスタートアップは上場するまでは国内市場に集中して、上場後に海外を目指す戦略をとる。しかし上場会社であることは海外展開には大きな足かせにもなりうるのだ。僕の前職でもあり、デライト・ベンチャーズのLPでもあるディー・エヌ・エー(DeNA)もその罠にはまった。

DeNAはVCの支援を受け2004年に上場し、海外展開を目指した。当時DeNAの主戦場だった日本のモバイルインターネットは世界的に見ても最も発展していたため、その勢いを利用して海外の市場にも同時に投資することとなったのだ。

株主は国内の業績が順調な成長を見せている間、海外展開を歓迎した。だが国内市場が一旦飽和し始めると、そのプレッシャーが高まった。米国のマーケットは日本に比べて規模が大きく、その分、投資額がかさむ。当時の米国事業は、長期的な投資計画を要するフェーズだった。そのため日本の四半期や年単位の利益の見通しによって、米国への投資を抑えたり短期的な売上を絞り出したりしなければいけないこともあった(編集部注:渡辺氏は当時、DeNAの海外事業責任者として海外進出を担当していた)。

早期に上場した日本のスタートアップが海外展開に苦労する、典型例とも言える。国内市場に最適化されたチームやプロダクトから脱皮して海外展開を目指すのは「第二創業」と言っていいほどの痛みを伴う。また長期的な投資計画が必要であり、短期的な時間軸で事業を評価する公開市場の株主とは相性が合わないことが多いので、上場のデメリットが際立つポイントだ。本当に世界規模のスタートアップを目指すなら、上場のタイミングより前に海外展開を行うかどうかは、起業家が意識すべきポイントだ。

視点3:スタートアップ上場──日本の現状とその背景

日本でもバブル崩壊後、株主至上資本主義の波が押し寄せて、米国風の規制緩和や投資家有利な税制などが展開された。しかし一方で日本独特の商習慣や外資規制が残り、米国ほど急激に大企業のR&Dが空洞化することはなかった。むしろ新卒一括採用制度や終身雇用制など、起業家を生みにくい雇用習慣もあり、大企業の存在感は健在だ。