実際、日本のスタートアップ・エコシステムはここ10年ほどで大きく成長してきた。スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL」が調査したレポートによれば、2013年に876億円だった年間の資金調達額は、2021年には8228億円と約10倍に増えている。10年ほど前は“1億円の資金調達”のニュースがあれば大きな話題となっていたが、今は数億円の資金調達は当たり前。数百億円規模の資金調達をするスタートアップも出てきている。

また、スタートアップに対して投資するベンチャーキャピタル(VC)に関しても、JVCA(日本ベンチャーキャピタル協会)が発表している「ベンチャーキャピタル最新動向レポート」によれば、2021年は新たに103ファンドが設立され、ファンドレイズの金額も合計4185億円となっており、こちらも10年前と比較すると、10倍以上の規模感にまで成長。資金の出し手が増えたことにより、スタートアップ1社あたりの資金調達額も平均3億円に増えている。

 

その一方で、資金調達社数は2019年以降減少が続いていることから、有望なスタートアップには多額の資金が集まりやすく、そうでないスタートアップが資金が集まりにくい状態になっているとも言える。資金調達がうまくいっているスタートアップは採用もうまくいっているが、そうでないスタートアップは人も採用できない。ここ数年でスタートアップの二極化も進んでいるというわけだ。

キャリアとしてスタートアップを選ぶ人も増加

資金調達の金額が増えたことで、スタートアップも人材採用にきちんと投資できるようになり、平均給与も上昇傾向にある。日本経済新聞社が2021年に実施した「NEXTユニコーン調査」によれば、有力スタートアップの平均年収は630万円だったという。東京商工リサーチの調査では、2020年時点での上場企業の平均年収は603万円だったとのことで、スタートアップと上場企業の平均年収の差はほとんどなくなっている。

10年前であれば、「スタートアップは安月給が当たり前」というイメージが一般的だったかもしれない。だが、スタートアップを取り巻く資金調達環境が変化したことにより、そうしたイメージは間違ったものになってきている。

リスクをとってスタートアップに飛び込み、収入のアップサイドを狙う──今もそうした考え方の人はいると思うが、この10年ほどで自分自身のキャリアをより有意義なものにするためにスタートアップを選ぶ、という人も増えている。