M&A後、買い手・売り手がそれぞれ事前に思い描いた成果を得られたか否かについても、オープンに語られることはなかなかありません。「スタートアップの買収によって減損を出した」といったネガティブなニュースは話題になりますが、「どうすれば本当に成功できるか」のヒントになるような情報は少なく、先行者の経験からの学びが起きにくい状況が続いています。本連載で、M&Aのリアルな情報をお届けできればと思います。

著名事例で振り返る日本企業のM&A

起業家の皆さんの中には、M&Aというと自分とは縁のない、遠い世界の出来事のように感じる人もいらっしゃるかもしれません。おそらく大企業同士のM&Aの印象が強いせいかと思いますが、M&Aという手法自体は、事業規模の大小に関わらず適用可能です。最近は、サラリーマンが数百万円で会社を買うといったこともよく耳にするようになりました。これもMerger & Aquisition、「合併と買収」の買収に当たります。

 

上の表に、過去15年で特に話題になったM&Aの事例を挙げてみました。対象会社の株式の過半数を取得し、経営権を得るという行為そのものは同じですが、企業規模が大きくなればなるほど、業界全体に及ぼすインパクトが大きくなり、株式市場からの注目度も高くなることが見て取れるでしょう。

こうしたM&Aがなぜ起こったのか、その背景を考えてみましょう。表中の例の中では、一番上の東京三菱銀行とUFJ銀行の事例は合併、その他は買収です。買収の場合は、売り手企業は買い手企業のグループ会社となるのに対し、合併の場合には2つ以上の企業が1つの企業になるかたちを取ります。業界再編の流れの中で同業同士が手を組む際などは、機能の統廃合がカギとなることから、買収ではなく合併するケースが多く見られます。

表にあるメガバンク同士の事例のほか、百貨店同士(大丸と松屋、伊勢丹と三越など)、ドラッグストア同士(マツモトキヨシとココカラファインなど)の事例も挙げられます。このような「同一の市場における、トップレベル企業同士の統廃合」は、お互いが切磋琢磨しても市場が横ばい、もしくは下降傾向であり、互いがシェアを奪い合うよりも統合するほうが、メリットがあると明確に判断できるケースが多いことが特徴です。

表の2行目以降の買収に関しては、武田薬品工業とシャイアーが事業会社同士である一方、ベイン・キャピタルと東芝メモリの例のように、事業会社ではなくファンドが買い手になるケースも見られます。ファンドによるM&Aと聞くと、「ハゲタカファンド」や「敵対的買収」というキーワードを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、友好的な買収事例も多数あります。