ベイン・キャピタルは特に日本企業の買収事例が多く、たとえば2011年には経営危機に陥っていたすかいらーくを買収。経営再建を進めたうえで、再上場へと導いています。マクロな視点で見れば、このような“ハゲタカ”と呼ばれるような「企業解体/企業再生」は、本来の価値を発揮できずに経営危機に瀕している企業における、倒産を回避する方法のひとつと捉えることもできると思います。

このように皆さんもご存知の大企業同士のM&Aは、市場でトップシェアを獲得するための確実性の高い選択であるか、経営危機に瀕した場合の最終手段であるケースが目立ちます。その一方、スタートアップM&Aには違った側面があります。

スタートアップM&Aに期待することは「起爆剤」

スタートアップのM&Aについて考える場合には、企業規模の違いに加え、対象企業の「若さ」も重要なファクターになります。事業としても組織としても発展途上であるからこそ、将来の成長の余地が大きく、同時に不確実性も多分にはらんでいるのがスタートアップです。組織が未成熟であるということは、キーパーソンへの依存度の高さにもつながります。

買い手にとってはどんなM&Aも一種の「賭け」とも言えますが、対象会社がスタートアップである場合、過去の結果が少なく、より一層将来予測が難しくなるといえるでしょう。一方で、国内の人口減少が続く中、成熟産業を主戦場とする多くの企業にとって、現在の主力事業に代わる新たな事業の柱を育てることが喫緊の課題となっています。そこで注目されているのがスタートアップのM&Aなのです。

 

長年業界をリードしてきた歴史と伝統ある企業にとって、新規事業の立ち上げとは、ある種異次元のイベントです。現在の主力事業もかつて新規事業だったとはいえ、その後数十年も経過していれば、ゼロからイチをつくる経験をした人はすでに社内におらず、そうした志向を持つ人材も集まりにくくなります。こうした条件下で社内での事業立ち上げに挑むよりは、発展途上ではあっても、すでにかたちをなしているスタートアップを人材ごと仲間に引き入れた方が、むしろ成功可能性が高いというわけです。

スタートアップのM&Aでは、人材獲得がむしろ主目的となっている「アクハイヤー(Acqui-hire)」(Aquire(買収する)+Hire(雇用する)の造語)もよく見られます。事業の立ち上げができる人材として経営者と会社や事業をセットでグループに加えるケースのほか、ウェブ・アプリ開発、システム開発などの人材獲得競争が激しい業界では、エンジニアを採用する目的で同業会社を買収する例もあります。