買い手の視点:自社の課題解決規模が買収金額を決める

事業会社によるスタートアップの主な買収パターンには、「既存事業の強化・拡大」「隣接事業の獲得」「飛び地事業の獲得」があります。

「既存事業の強化・拡大」については、最も分かりやすいのは、シェアを食い合う同業者同士が手を組むパターン。これは昨今、インターネット広告の領域で活発化している動きです。有機野菜の宅配領域でも、オイシックス、らでぃっしゅぼーや、大地を守る会の3社が2017年から2018年にかけて経営統合したことは、記憶に新しいでしょう。市場が過熱してくると業界再編が起きる流れは、大企業でもスタートアップでも変わりありません。

また、これは「隣接事業の獲得」とも重なりますが、同じ顧客層に対して近いサービスを展開している事業を仲間に迎え、クロスセルを狙うパターンもあります。SaaSなどはこのタイプのM&Aが起きやすい代表的な領域です。

「隣接事業の獲得」は、さらに2つの方向性に分けられます。水平方向と垂直方向です。水平方向のM&Aで対象になるのは、自社と同じモデルでありながら、異なるカテゴリで展開している事業です。具体的に言えばウェブメディア運営会社が他メディアを買収する動きなどがこれに当たります。一方、垂直方向のM&Aでは、既存事業のバリューチェーンの上流あるいは下流を押さえ、コストカットによる体質強化、顧客情報共有によるサービスの付加価値向上などが狙いになります。

「飛び地事業の獲得」は、「スタートアップM&Aに期待することは『起爆剤』」の章で説明したように、新たな事業の柱をつくる目的で行われます。飛び地を買って成功した例としては、楽天がイーバンクを買収してネット銀行事業に参入した件が有名です。

スタートアップM&Aの概要について、ここまで駆け足で解説してきました。ガイダンスの後編となる連載第2回では、スタートアップM&Aにおける売り手の視点、またスタートアップM&Aにおいて論点となる企業価値の算定について、お話ししていきたいと思います。