──市場環境にも大きな変化があり、上場承認を受けた企業が上場を延期したり資金調達がシビアになったりと、スタートアップも大きく影響を受けた1年だったと思います。起業家として事業を運営する中で大変だったことなどあれば教えてください。

マクロ環境は変動しますしアンコントローラブルですが、ユーザーの課題解決をすること、顧客を向いた事業運営の大切さは変わらない(むしろ増す)ので、マクロがどうだからどう、ということにならないようにやっていくのが大事だなと、改めて気が引き締まる1年でした。

及川厚博氏 / M&Aクラウド代表取締役CEO

──2022年に盛り上がったキーワードは何でしょうか?

不況到来。

──そのキーワードを選んだ理由を教えてください。

ソフトバンクの決算発表が大幅赤字となったのは象徴的な出来事です。スタートアップにとってもゲームチェンジの1年になったと思います。ダウンラウンドの資金調達を余儀なくされた企業が多かったほか、ユニコーンの中でも上場できない企業が出るなど、明暗が分かれました。経営方針の転換を迫られたスタートアップ経営者も多かったのではないでしょうか。

そんな中、スタートアップの資金調達先として、VCだけでなく事業会社にも目を向ける流れが生まれました。当社も資金調達ニーズへの対応に注力しており、新サービス「資金調達クラウド」のユーザー数も想定を超える勢いで伸びています。

IPOの先送りも相次ぎ、長期でIPOを目指すため、VCの持ち分を事業会社に振り替える動きが目立ち、米国ではすでに一般化しています。IPOとM&Aを並行して検討する「デュアル・トラック・プロセス」も浸透し始めているほか、タイミーやUPSIDERなどデットファイナンスを活用する事例も見られました。従来は「VCから調達してIPOを目指す」ことに偏りがちだった、国内のスタートアップファイナンスの手法に幅が出てきたと言えます。

──2022年の動きを踏まえて、2023年に個人的に期待している領域、またどういった領域がトレンドになると思いますか?

円安の影響に加え、コロナ禍からの回復が進むことで、まず成長が見込まれるのはインバウンド関連ビジネスです。諸外国に比べ物価も低いこともあり、成長トレンドは長く続くでしょう。他に円安が追い風となるビジネスとしては、海外企業を顧客とする受託開発ビジネスなどが挙げられます。

また、デフレ、スタグフレーションの影響で、「安く買える」サービスの価値が高まっていくはずです。「Amazonを脅かす」と言われたカナダ発のECプラットフォームの雄・Shopifyが業績を下げているのも、加盟店にディスカウントストアが少なかったことが背景として挙げられます。今後は「ディスカウントストア2.0」のようなサービスの盛り上がりが予想されると思います。