浅川:たしかに脱炭素に対するファイナンスは、どのような数値的根拠に基づいているのか不透明な状態。従来の財務指標にはない、SDGsやESGを定量化していく必要を感じます。そのためにも全球観測によるデータの可視化は有効な手段です。しっかりとした指標ができあがればこそ、脱炭素のための経済活動はより活発になるはずです。
──脱炭素のためには地球全体を見渡す“神の目”が必要であり、それは宇宙であればこそ実現できるということですね。全球でデータを定期的に取得するとなると、センサーを搭載した小型衛星がしっかり配備される必要があると思います。小型衛星はもちろんですが、宇宙の持続性を担保した新たな推進機の役割も高まりそうですね。
浅川:地球の低軌道上に配置できる衛星数の上限は見えてきています。今後はその上限に対して、宇宙空間にある衛星をどう整理していくかが重要課題となります。ここ1、2年で、軌道離脱やデブリ(宇宙ゴミ)と衝突する可能性を回避するための推進機が欲しいというニーズが着実に増えている状況です。
これまでの推進機にはキセノンという希少なガスがよく使われていました。酸素を生成するプロセスでわずかに得ることができるガスで、医療の現場なども使われているのですが、資源が限られていることが問題です。また製造に関してはロシアやウクライナに依存しており、価格が高騰していて入手が困難となっています。今後、脱炭素に向けて全球観測の実現を目指すのであれば、調達が簡単な水を推進剤として使うという観点はより重要になると思います。
インセンティブを得られる支援が大学発スタートアップの競争力を上げる
──2人は大学での研究から出発して起業しています。今後、アカデミアとビジネスが深くつながっていくために何が必要だと考えますか。
福代:私はアカデミアの世界からビジネスに飛び込む人材が増えるためには、何より産業自体が力をつけ人材の受け皿になる必要があると思います。世界で勝つためには競争力あるプロダクトを生み出さなければなりません。そのためには、政府の支援制度の在り方も変化すべきです。
日本の場合、支援のほとんどは公共事業のような受託形式です。つまり、使った分しか支援を受けることができません。一方で、余った財源がインセンティブになるという支援であればどうでしょう。支援を受けた産業はコストを下げる努力をするようになり、必然的に競争力のあるプロダクトが生まれるはずです。結果として国際競争力が磨かれ、もうかる企業も生まれる。そうなればアカデミアの世界からさらに人材が集まるはずです。