脱炭素実現には衛星からの"全球観測"が不可欠──東大発スタートアップが担う重要な役割とは
アークエッジ・スペース代表取締役CEO 福代孝良氏

浅川:私も最初から水を使った推進機を研究していたわけではなく、火薬やガスを使用した推進機やその打ち上げ・運用を研究していました。

研究を続ける中で、基礎研究と、実際に衛星に搭載する推進機に必要とされる要素にギャップがあると思うようになりました。基礎研究では「燃焼がどう起きるか」「ガスやプラズマがどう動くか」など物理現象をひたすら追っていきます。一方で衛星に推進機を載せる際には、物理現象の理解よりも、信頼性が高くトータルのシステムとしてしっかり稼働することが求められます。そのギャップが大きいあまり、実際に使える推進機がなかなか増えない。ひいては、小型衛星のミッションを阻害する要因になっていると感じていました。

また現在の日本の研究開発研究費の仕組みはどうしても、総予算は増えずに研究室で取り合いになってしまう──、ゼロサムゲームになりがちです。パイを広げていかないと、大学などで行われている基礎研究の成果を人類発展に結びつけることができません。研究成果をしっかり社会実装し、そこで得た収益を再び将来の研究や人材育成に再分配していく。民間企業でそんなサイクルをつくりたいと考えています。

カーボンニュートラル実現には宇宙からの“全球観測”が不可欠

──地球上では脱炭素に向けたさまざまな取り組みが進められています。宇宙領域における脱炭素化にはどのような可能性があるとお考えますか。

福代:脱炭素を実現するためには、地球全体(全球)を正確に観測する手段が必須となるでしょう。アマゾンの事例だと、ある国・ある州の森林破壊がなくなったとしても、伐採者たちがほかに移って破壊を続けるという連鎖が現れます。仮に2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを目指すのであれば、日本や欧米、あるいは中国、インド、アフリカなど各地域の特定のポイントごとに観測するのではなく、地球全体として排出量を観測・削減しなければなりません。それを可能にする手段のひとつが宇宙空間の利活用だと思います。

全球観測には、時間頻度的にも優位性のある小型衛星を使用したコンステレーションなどが有効となるでしょう。小型衛星は、森林火災が起きた際にすぐに出火元を特定し被害・排出を抑えることにも使えます。また、森林はCO2を吸収しますが、その適切な管理や計測にも宇宙空間や人工衛星が威力を発揮するでしょう。全球レベルで排出量が可視化されれば解決のための技術も投入しやすくなりますし、ファイナンスも効果的になるはずです。