投資家としても単に数値面の分析に終始するのではなく、本当のアルファ(投資による超過収益)を追及するためには、そういった抽象的かつ哲学的な部分に対してしっかりと対話できるか、深い事業理解を元に本質的な価値の解像度を上げていけるのか、そういった部分の判断の質を高めていかないといけないと感じています。

また、上場においても、今後は上場そのものよりも、上場のタイミング、戦略的な意図および上場時のブックの構成含め、質的にどういった上場なのか、また、上場後にエクイティストーリーがどのように開花していくのか、より一層その本質が問われ、結果としてIPOの成功の定義がより狭義に洗練されていくように感じています。

機関投資家の関心も増大する中で、今後、その質的な差異が公募段階での需要およびその後の株価形成を二極化的に決定づけるのでは感じています。

バーティカルSaaSは様々なアングルから注目

今年度も注目していきたい具体的な分野としては、引き続きバーティカルSaaSです。特定業界のペインを深くえぐり出し、特定のオペレーションプロセスにおいて、マストハブ/業界必携のソリューションとなろうとする取り組みは今後拡大していくと考えます。コロナ禍とあいまって、この分野の動きがとても面白くなってくると感じ、様々なアングルから注目していきたいと思っています。

例えば、ホリゾンタルSaaSがワンプロダクトで掘り下げようとすると結果的に自殺行為となるような、業界慣行に徹底的に最適化したUI、UXの実装によりバーティカルSaaSならではのモート(堀)の築き方も大変興味深い戦略だと感じています。

これまで社会における全般的なDXは一般的にはホリゾンタルSaaSにより推進されてきたと感じます。しかし、本当の意味で深みを伴う社会装置化とも言うべきテクノロジーの実装は、バーティカルSaaSの方がよりインパクトがありテクノロジーをレバレッジし産業の可能性をどこまで追求できるのか、社会への影響など様々な面白さが凝縮してくると感じます。

一般的に、バーティカルSaaSはTAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大規模の市場)が小さいと言われがちですが、個別の事業の組み立て方を見ると、必ずしもその話は当てはまらないと感じます。

例えば、ロードマップの引き方として、まずは特定のオペーションに深く入り込み、その後そのエンゲージメントやデータをレバレッジして、左右のオペーションプロセスのカバレッジを捉え漸進的に守備範囲を広げていくような戦略的なアプローチは、エンゲージメントを深めTAMを広げ、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)やNRR(Net Revenue Retention:売り上げ維持率)を高い次元に押し上げる大きな可能性を持っています。そういった事業構築の可能性をリアリティもって提示できればまた見え方も変わってくると考えます。