そこでTANOMUでは値動きの激しい商品を扱う卸業者でも、商品管理をしやすい設計を目指した。必須入力項目を減らし、金額を入れなくても発注単位と数量さえ入れれば発注できるようにする、デバイスフリーでのマスタ管理を可能にするなど、導入企業にとってはシンプルながら細かい所に手が届くプロダクトを作っていったわけだ。
「インフォマートが今からだと変えるのが難しいところをあえてゆるくすることで、ホワイトスペースを見つけて展開しました。(インフォマートにとっては)そこが不得意だろうと考えたからです」と川野氏はその意図を振り返る。
まずは卸売業者に無料で試験運用してもらいながら何度もブラッシュアップを重ねた。納得してもらえるものができた段階で、川野氏はようやく有料で提供することを決断する(TANOMUは受注側の卸売業者が月額数万円〜の利用料金を支払うSaaS。発注側の飲食店は無料で使える)。
当初の出来栄えは決して良いとは言えず、厳しいフィードバックを受けることもあった。だが満足してもらえるものに仕上がってからは既存顧客の紹介を中心に導入先が一気に広がり、半年で数千店舗の発注に使われるまでに成長した。
「要は川野さんはインフォマートに足りないところを攻めた。だからこそ補完関係があるのは考えてみれば当たり前のことであり、その考えは今も変わっていません」(長尾氏)
競合ではなく補完関係、業界全体のDXには単独では難しい
インフォマートとタノム、双方の代表を担う長尾氏と川野氏は共に三井物産の出身。在籍中に面識があったわけではないが、共通の知人がいたためその人物を介して長尾氏から川野氏へ電話をかけたのが最初の接点だったという。
当初こそ川野氏はインフォマートに対して“競合”という認識もあったが、業界への解像度が高まっていくに連れて「どうやら競合ではなさそうだ」と徐々に考えが変わっていった。
「話に行くお客さん全てがインフォマートのサービスを使っていて、TANOMU導入後も100%のユーザーが両方のサービスを併用していました。外からは『どうやってインフォマートを倒していくのか』と見られがちですが、実際はインフォマートからTANOMUに乗り換えるという話にはなりません。むしろ食品の受発注は市場が大きく、今でもアナログな部分が残っている。そもそも自分たちはインフォマートが入り切れていないところを取りにいくというスタンスで始めたので、十分共存できることがわかったんです」(川野氏)