「まず卸売業者からの意見として多かったのが、多機能すぎてどこから使い始めたらいいのかわからないというものでした。そこで自分たちが最初に取り組んだのが機能の絞り込みです。システムアレルギーがある業界において、機能の多さで喜ばれるよりも『TANOMUなら自分でも使えそう』と思ってもらえることを目指し、本当に必要な機能のみを追求して、それ以外はとことん削ぎ落としました(川野氏)

川野氏がサービス開発にあたって特に意識したのが「モバイルファースト」と「引き算の思考」だ。

そもそもインフォマートのサービスはPCの普及とともに成長してきたものであり、ユーザーもPCを通じて親しんできた。加えて大手企業がコアユーザーということもあり、幅広いニーズに対応できるように「足し算の考え方」で開発されているという印象を川野氏は持っていたという。

インフォマートが手がける「受発注ライト」のイメージ画像。同社のサービスは大手事業者を筆頭にさまざまな企業が活用する
インフォマートが手がける「受発注ライト」のイメージ画像。同社のサービスは大手事業者を筆頭にさまざまな企業が活用する

一方でタノムはデジタル化の恩恵を受けていない中小零細企業をメインのターゲットにした。そのためモバイル端末からスムーズに活用でき、余計な迷いが生じないように引き算の考え方で機能を実装していった。要は両者のサービスは成り立ちが異なるのだ。

結果としてTANOMUは搭載されている機能のほとんどが基本的とも言えるシンプルなサービスにはなったが、その分使い勝手の良さや導入のしやすさは向上した。

たとえばほぼすべての機能をスマホのみでも完結するように開発。商品の登録もメルカリのようにスマホカメラで撮影して、そのままスムーズに登録できるようにしている。

同時にCSV連携による基幹システムに合わせた形での受注データの出力機能や、リアルタイムでの自動集計機能などによって従来手作業で時間をかけて行っていた業務が大幅に削減されるように設計。少しでも導入しやすくなるようにLINEを使ってより簡単に登録できるフローを構築したほか、入力項目を1つでも減らしITにアレルギーがある個店の経営者にとっての導入ハードルを下げることを意識した。

タノムでは「モバイルファースト」と「引き算の思考」を重視してプロダクトを開発
 

またこの業界特有の慣習として、飲食店がFAXなどで食材を発注する際に卸売業者を信頼してわざわざ金額を記載しないことがあるという。

その点インフォマートのプロダクトは大手企業が利用することも見越して“ガッチリと”作り込まれているため、金額を正確に入力しないと発注できない仕様になっている。これがどうやらTANOMUの導入先となる小規模な飲食店などにとっては使いづらい要因になっていることがヒアリングを通じてわかった。