尾原:そうですね。まさにプロセスエコノミー(笑)。

楠木:僕が、競馬の例がいいと思ったのは、プロセスが2つあって、1つは競馬中継でレースが始まってからの、抜きつ抜かれつみたいなレース展開、それは1分45秒のプロセスです。でも、これだけが面白いわけではないということなんです。

尾原:なるほど。

楠木:面白いのは、レースが始まる前です。しかも、それが5年から7年にわたる馬の“人生”、もっと言うと、「孫が親の因縁を晴らした」みたいなことです。

尾原:競馬は、「親の因果が子に報う」という本当に長期のものから、今おっしゃったように、5年から7年の競馬の馬としての生き様もあり、乗る騎手と馬の相性みたいなものもありますよね。

楠木:そうです。ありとあらゆる要素が、大河ドラマのようなストーリーを作っていて、顧客はそれを一生懸命取りにいきます。なぜかと言うと、それが楽しいからです。で、供給者側であるJRA(日本中央競馬会)は、ありとあらゆるデータを揃えて、ウェブサイトを作り、ストーリーを顧客に提供します。

だから僕は、競馬というのはインターネットの時代になって、相当エンターテイメントとしての価値が上がったなと思います。

尾原:そうですね。そこにおいて面白いのが、供給者側がストーリーの骨格を作っているわけではなくて、勝手にお客さんがストーリーを生み出して、クライマックスを作って、みんなでカタルシスを作る。ユーザーが作るメディアなんですよね。

楠木:しかも、お客さん同士が読み取ったストーリーを他の人と共有することによって、どんどん価値が上がっていくみたいな。ものすごくプロセスエコノミーの要素が詰まったものだなと思います。

尾原:供給者側が、素材としてのストーリーをたくさん提供するから、勝手にファンがストーリーをくみ上げるし、そのストーリーをYouTubeやTwitterで人に伝えること自体が、ある種の承認欲求や所属欲求につながるところがあるので、自然とストーリーが生まれていきますよね。

楠木:競馬の例で僕がけっこう面白いと思うのは、お客さん側がストーリーを取りにいって、読み取って再構成して広めたり、他のお客さんとコミュニケーションしたりするんですけど、JRAが、ストーリーを作る要素になる情報をめちゃくちゃ提供しているんです。

情報の要素をふんだんに提供することによって、お客さんがそうした要素を組み合わせて、ストーリーを作ることになっているんですよね。