これまでも、プロセスがあるからプロダクトができていたという意味においては、プロダクトがプロセスのメディアだったんです。ただ、「顧客の価値において、プロセスのメディアになっている」というのは、これまでの理論とはぜんぜん違うところですよね。これが僕の理解ですが、正しいですか?

尾原和啓著『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』(出版:幻冬舎)
尾原和啓著『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』(出版:幻冬舎)

尾原:いや、もう作者以上に分かりやすい説明をしていただいて、ありがとうございます(笑)。おっしゃるとおりで、あえて誤解することを含めて書いたんですが、まさに、そこが一番誤解するポイントです。

「良いモノでは稼げない時代」になってしまったから、もともと裏側だったプロセスを表に出してくるというふうに、「軸足を変えましょう」「表裏を変えていきましょう」というのが、この本の大きいテーマなんですよね。

3つの論点で考える「プロセスエコノミー」

楠木:他のこれまでの議論との位置関係を整理すると、「エクスペリエンス・エコノミー」みたいな話が20年前からあるじゃないですか。顧客の側で、顧客が持つ経験が価値になるというものです。この「プロセスエコノミー」はそれと対比すると、顧客が手にする以前の、供給者側の経験が価値を持つということですよね。

尾原:モノができる前の途中過程ですね。

楠木:「顧客のエクスペリエンス」だったものが、「メーカーのエクスペリエンス」なっている。そして、それが顧客にとっても価値を持つようになるということですよね。

尾原:そうですね。

楠木:そうだとすると、面白そうだなと思う論点は、すでに我々が昔から何かの価値を感じているものの中に、尾原さんのおっしゃるプロセスエコノミー的なものがいっぱいあるだろうと。その典型的なものは何か、というのが1つです。

もう1つは、プロセスエコノミーが実際に商売として成立する条件です。例えば、「産業財だったらどうなのか」とか。例は、消費財の話が多いと思うんですけど。

あと、良いモノだけでは稼げないのは確かなんだけど、モノとしてみたときに、「ロクでもないモノ」がプロセスだけで稼げるかと言うと、どうなんだろう、とかね。いろんなプロセスエコノミーが商売として成立する条件を考えると、非常に面白いんじゃないかと思います。

競馬にみる、「プロセスエコノミー」的な要素

楠木:最初のほうの論点で、「もとからプロセスエコノミーの性格が強いものは何だろうか」という点で、僕が思いつくのは「競馬」なんですよ。

尾原:競馬ですか。

楠木:僕は一切ギャンブルをしないので、馬券を買うことはないんですけど、競馬を見るのが好きなんです。なんで競馬がおもしろいかと言うと、生い立ちから含めて、その馬がそのレースに出るに至った、これまでのレースでの成功や失敗、ケガを乗り越えてとか、ジョッキーが乗り替わったとか……。