尾原:そうですね。

楠木:僕なりに、プロセスエコノミーをどう理解したかをまず話しますね。感想を一言に凝縮すると、「プロダクトはプロセスのメディアになる」という、帯に書いた通りの言葉になるのですが、もともと製造業にしてもサービス業にしても、必ずプロダクトやサービスが出てくる背後にはプロセスがあるわけですよね。

これが価値を作っていたことは、間違いありません。典型的な例で言うと、トヨタの「ヤリス」というクルマに僕は乗っているのですが、僕にとってはいいクルマなんですよ。普通にただ移動するクルマとして、EV(電気自動車)ではないですけど究極的によくできたハイブリッド車で、本当に快適です。

尾原:居住性のよさそうなハイブリッド、でもカッコイイという感じなんですね。

楠木:カッコイイし、必要な機能が全部入っていて。何よりも非常に燃費がいい。ぜんぜん壊れなさそうな、本当に品質の高いトヨタの自動車です。これは、まさに製品としての価値ですよね。

尾原:そうですね、まさに。

楠木:じゃあ、なんでそれができているのかと言うと、昔から練り上げてきた「トヨタ生産方式」というものがあって、それがあるからこそ高品質のモノを低コストで生産できている。だから、このクルマとプロセスとは切っても切り離せないんです。

だけどプロセスに競争力があったとしても、プロセスの中身にお客さんが興味・関心を持つことはないわけです。これまでのプロセスとは、そういうものです。プロセスが総動員されて、非常に価値があるプロダクトができているのですが、顧客はプロダクトでしか価値を認識しない。

尾原:そうですね、はい。

楠木:むしろそのプロセスは、意識的には楽屋裏のものだったんです。

尾原:楽屋裏、まさにそうだと思います。

楠木:俳優さんが、「楽屋裏は見せません、作品になっている私の演技を見てください。プロセスは関係ないですから」って言うのと同じです。むしろ、今までは見せてはいけないものだったわけですよね。

尾原:むしろ見せるのが野暮だと言われますね。

楠木:それが、今までのプロセスから来ている競争力です。すべての価値は、プロダクトかお客さんに提供されるサービスに集約される、と。

それが、プロセスエコノミーでは「プロセス自体が、お客さんの認識においても価値を持つ」ということですよね。だから、それは今までのプロセスとプロダクトとの関係の整理では出てこない話です。