36の拠点を持つ東海岸のとあるクリニックでは、卵子凍結の件数が50%以上も増加。また、不妊治療専門クリニック「Seattle Reproductive Medicine」では、2019年の242件に対し、2020年には289件の卵子凍結サイクルを実施しており、20%近く増加している。

なぜ、卵子を凍結する女性の数が増えているのか。その理由として考えられるのは、パンデミックによってパートナー探しができず、そもそも卵子凍結のニーズが拡大したことがある。また出張や出勤がないため、頻繁な来院が可能となり、卵子凍結時に必要となるホルモンショットによる副作用が出ても、(リモートワークが中心のため)日常生活に影響が出にくくなったことなどが挙げられる。

一般的に年齢が若ければ若いほど卵子の数は多く、卵子凍結の成功率も高い。多くの女性は妊娠率が下降線をたどる「35歳」という節目を恐れている。そのため、パンデミックによって、パートナー探しが出来ず、生物学的な時計を一時停止したい女性が増えたのだ。

コロナ禍でのニーズの高まりを受け、成長を遂げる卵子凍結領域のスタートアップをいくつか紹介する。1つ目は、ミレニアル世代をターゲットにした不妊治療クリニックのKindbodyだ。

Kindbodyウェブサイトより
Kindbodyウェブサイトより

同社の特徴は、マーケティング戦略と顧客の獲得方法にある。Kindbodyの黄色の移動式ポップアップトラックが街中に現れ、ウォークイン形式で簡単にAMH値(卵胞数を評価するもの)の血液検査(無料)ができる。

結果を受け取るためには、オンラインのアカウントを作成する必要があり、そこからリードを獲得し、来院に繋げている。ニューヨーク発の会社だが、2019年にサンフランシスコにも上陸し、金融街の中心部に旗艦店ともいうべきクリニックを設けている。

サンフランシスコにあるKindabodyのクリニック(Kindbodyウェブサイトより)
サンフランシスコにあるKindabodyのクリニック(Kindbodyウェブサイトより)

筆者も実際に、ポップアップトラックで血液検査をしてみたが、おしゃれなコーヒー移動販売店のような外観で、外には白いテーブルとイスがあり、同社の医師と軽いコーヒーチャットができるようになっている。結果を受け取った後、ヨガスタジオとのコラボレーションイベントや、「卵子凍結とは何か」を説明してくれるイベントなどの案内が送られてきた。

何度か無料イベントに参加しているうちに、自然と300ドル(約3万3000円)の“妊娠可能性検査(Fertility Assessment)”プランを購入していた。院内は、おしゃれなカフェやコワーキングスペースを想像させるようなデザインで、病院に来ている感覚が全くなかった。