World Makerでは新規でネームを作ることも、用意されたテンプレートを編集するかたちでネームを作ることも可能だ。セリフなどを入力すると自動で吹き出しになり、コマ割りも自動で提案されるが、変更も可能だ。

「World Maker」では「新規」もしくは「お手本」からネームの作成が可能。「キャラ」や「ふきだし」、「オノマトペ」などを追加・変更したりして漫画ネームを作る
「World Maker」では「新規」もしくは「お手本」からネームの作成が可能。「キャラ」や「ふきだし」、「オノマトペ」などを追加・変更したりして漫画ネームを作る (拡大画像)

「強調したいシーンは大きいコマがオススメ!」、「セリフを入れないコマも大事だよ!」といった具合に、作成中にはさまざまなアドバイスをアプリが与えてくれる。

キャラクターにはWorld Makerのオリジナルキャラクターや「いらすとや」のキャラクターを使えるため、ユーザーは絵を描く必要がない。

目的は「アイデアを“ビジュアル化”する能力」の開放

World Makerを開発した理由について、林氏は「アイデアを“ビジュアル化”する能力を開放したかった」と説明する。

「World Makerのベータ版は『漫画を楽しむ人が増えてほしい』という純粋な目的で提供を開始しました。ですが、World Makerにはより大きな目的があります」

 
 

「私はビジュアライズ(可視化する)という能力は“魔法の杖”のようなものだと思っています。アニメや漫画は世界に届きやすいのですが、文芸など、日本語で作られたコンテンツでは難しい。なぜかと考えた時に鍵となるのが、ビジュアライズです。ビジュアライズは“絵を描ける人”に限定された能力になってしまっています。ですが、その能力を開放することができれば、多くの人の頭の中に眠っている面白い物語やアイデアが世界に届きやすくなるのではないでしょうか」

 
 

「漫画業界のネームに限らず、絵コンテなど、ビジュアル化する際の設計図は他の業界にも存在します。物語を絵にしていく、映像にしていく際にも使われるようなサービスになりたい、というのがWorld Makerを提供する本当の目的です」

 
 

「そのため、World Makerというサービス名には『漫画』や『ネーム』、『コミック』といった言葉は入れていません。それには『活用できる業界を制限したくなかった』という意図があります」(林氏)

「少年ジャンプ+」副編集長の林士平氏
Zoom取材に応じる「少年ジャンプ+」副編集長の林士平氏。編集部からの参加だったためマスクを着用

World Makerで目指す「新たな才能の発掘」

集英社では9月からWorld Makerを活用した「第1回 World Maker 漫画ネーム大賞」というコンテストを開催し、10月8日まで応募を受け付けた。「どこか奇妙な異世界ファンタジー」、「ある夏の日常について」、「続きが気になる4ページの漫画」という3つの“お題”のいずれかに沿った作品を制作することで誰もが参加でき、大賞に選ばれた作品には30万円の賞金のほか、ジャンプ作家である宇佐崎しろ氏(『アクタージュ act-age』など)もしくは大石浩二氏(『トマトイプーのリコピン』など)に作画してもらえる権利が与えられる。結果は12月にも発表される予定だ。

林氏はこのコンテストの開催を「World Makerでネームを制作するためのモチベーションにしてほしい」としつつも、「優れたアイデアを持つ才能との出会いにもしていきたい」と話した。

「『目的』は何かを作る際のモチベーションにもなります。『有名なジャンプ作家が絵を入れてくれる』となれば絶対にモチベーションになると思いました。もちろん、漫画の原作者になれるような方と出会えたら嬉しいな、という考えもあります」

 
 

「これまで、『絵は描けないけど面白いストーリーは思いついている』という方は、小説家やライトノベル作家、脚本家への道を歩むケースがほとんどでした。ですが、World Makerを使うことで面白いネームを描くことができ、漫画の原作者になるような方が出てくれば、それは素晴らしいことです。また、小説やライトノベルといった分野で活躍中の方が、誰かにネーム作成を依頼するのではなく、自ら『ネームにしてみたい』という思いで使っていただけても嬉しいです」

 
 

「先ほどお話した『漫画を楽しむ人が増えてほしい』という言葉には2つの側面があります。まず、World Makerを提供することで漫画作りのハードルが下がれば、それを楽しむ人は確実に増えると思います。そして作る人が増えれば、その作品を楽しむ人も増えることになります」(林氏)

時期は未定だが、林氏はすでにWorld Makerの正式版のリリースに向けて動いており、例えばイラストとして使えるキャラクターの追加やマネタイズの施策などを検討しているそうだ。

どこまでアプリに落とし込まれるかは分からないが、「ユーザー同士がコラボレーションできる機能」など、林氏の頭には“次”に向けたさまざまなアイデアがある。

「例えば、漫画を作りたい人と絵を描きたい人をつなぐようなマッチングサービスも、アイデアとしてはもちろんあります」(林氏)

World Makerが普及すれば絵が書けない人でも漫画家を名乗れるようになる。取材中、筆者がこう話すと林氏は「そうなっていってくれたら(嬉しい)」と答えた。

特集の#1では、「ウェブトゥーン」をスタジオ体制で制作し「漫画家人口の増加」をもくろむ、スタートアップのソラジマとLOCKER ROOMを紹介した。「これまで漫画業界の外に眠っていた才能に光を当てる」という意図は、2社のスタートアップと少年ジャンプ+編集部とで共通している。だが、少年ジャンプ+編集部が目指すのは単なる分業化ではない。World Makerを通じて、漫画制作の一工程を担うスペシャリストではなく「漫画の“中核”である脚本やネームを手がける人口を増やしたい」という意図からは、ウェブ漫画時代の“新たなプロ漫画家”発掘への本気度を感じる。