ソフトバンクはヤフーやiPhoneを筆頭に、海外で芽が出始めたプロダクトを目利きし、いち早く日本で展開することによって事業を成長させてきた。アキュリスファーマの場合はその対象が「医薬品」になると考えるとわかりやすい。

同社が最初に取り組むのは、日本で年間約15兆円の経済損失を引き起こしているとも言われる「睡眠障害」分野の課題解決だ。

すでにフランスの製薬企業Bioprojet Pharmaが手がける薬剤「Pitolisant(ピトリサント)」の日本での独占的開発・商業化に関するライセンス契約を締結済み。この薬剤は米国や欧州で各当局の承認を受けており、臨床現場でも使用されているもので、アキュリスファーマでは国内での臨床開発を進めていくという。

日本の社会課題解決へ、外資製薬の日本法人代表からの起業

「日本の人々や、この国自体にどれくらい貢献できているのだろうか。そんなとんでもないことをふと思い始めたことがきっかけになりました」

綱場氏は起業に至った背景についてそう話す。同氏は製薬業界で約20年の経験を持つベテランで、ノバルティスファーマの日本法人では2017年から2020年まで社長を務めた。前職では革新的な医薬品の発売にいくつも携わり、やりがいも感じていたという。

そんな綱場氏にとって1つの転機になったのが新型コロナウイルス感染症だ。2020年に入り日本でも急速に感染が広がっていく中で、「日本の社会課題を解決するためにもっとできることがないか」と強く感じるようになった。

もともと小学生の頃から起業家への憧れはあった。きっかけはリクルート創業者の江副浩正氏がゼロから新しい事業を立ち上げて脚光を浴びる姿をテレビで目にしたこと。「(2021年には)ちょうど50歳になるので、その前に日本の社会課題の解決に向けた挑戦をしたい」と考え、自身で会社を立ち上げた。

創業時から睡眠障害に絞っていたわけではないが、「事業ドメインは神経・精神疾患領域」「エリアは日本を中心としたアジアに特化」「ビジネスモデルは海外で承認された医薬品を探し当ててくること」などは最初から決めていた。

「(初期メンバーは)自分も含めて中枢神経領域の経験が長いので、それぞれの力を合わせれば強力なチームになると考えました。アンメット・メディカル・ニーズ(治療方法が発見されていない疾患に対する医療ニーズ)の割合が高いのが精神疾患領域であり、薬剤が貢献できる余地も大きい。経験値やスキルがないと難しい領域ではありますが、自分たちの強みを活かせるとも思っています」(綱場氏)