製薬系のスタートアップは、優秀な研究者の発見を土台として新薬をコンセプトレベルから開発するアカデミア発の企業も多い。一方でそうしたビジネスモデルの場合は時間軸が長くなるため、「スタートアップとしてはリスクが高く、投資家サイドからもリスクが高いと思われがち」だと綱場氏は話す。

「医薬品ビジネスでもリスクを最小限に抑えられ、その上で将来的には研究開発型にトランスフォーメーションすることもできる。そのようなモデルを証明したいという思いもあります。だからこそ、最初は海外で承認されている医薬品で、日本の社会課題にしっかりと当てはまるものを探してくるというやり方を採りました」(綱場氏)

もっとも、いくら業界に対する知見が豊富でも、海外の医薬品を日本で展開するには膨大な資金が必要だ。そのため、綱場氏はヘルスケア領域に特化したVCのキャタリスパシフィックとタッグを組み、共同でアキュリスファーマを立ち上げた。

それ以降はチームを作りながら、神経・精神疾患領域において複数の化合物を探索。その過程で冒頭で触れたピトリサントと出会い、睡眠障害の課題解決から取り組むことに決めた。

カギは“目利き”、タイムマシン戦略を医薬品ビジネスに応用

アキュリスファーマのロゴ
 

アキュリスファーマのビジネスモデル自体は決して目新しい発想ではない。ただ、実際に実現しようと思うと難易度が高いと綱場氏はいう。資金の問題に加え「どの医薬品を持ってくるか」の“目利き”や“交渉力”も重要になる。

たとえば同社が日本で展開しようとしているピトリサントは睡眠障害の薬剤だが、現時点で日本の睡眠障害の医薬品市場は小さい。だがその症状に悩まされている人は一定数存在し、潜在的なニーズ自体は大きいというのが綱場氏たちの見立てだ。

「そのようなニーズを見極めた上で薬剤を目利きし、患者に治療に向き合ってもらったり、医師に治療に携わってもらったりしながら、市場を顕在化させるところまでやりきれるかどうか。経験のあるチームでなければ難しいと思います」(綱場氏)

また国内の製薬業界を取り巻く環境の変化も影響を与えている。中でも大きいのが薬価の問題だ。増大する医療費を抑える手段として、薬価の引き下げが進む。

その結果として大手製薬メーカーは海外市場に目を向け、日本に注力した医薬品の開発や、アジアだけでの販売権・開発権には興味を示さなくなりつつある。かたや中小規模のメーカーとしても研究開発費に大規模な投資をしづらい環境だ。

綱場氏によるとニューロサイエンス領域に強みを持つ海外のバイオテック企業の中には、アメリカやヨーロッパに次ぐ市場として日本に関心を示す企業も多い。そのため日本への参入には前向きであるものの、国内でパートナーとなる企業をなかなか見つけられない状況にあるという。