日本の半導体産業が復活のチャンス

 AI利用の増加は、わが国の半導体産業が復活するチャンスになるはずだ。日本経済の実力である潜在成長率の上昇にも大きく影響することが期待できる。

 24年にかけて米国経済が多少減速したとしても、エヌビディアやマイクロソフトなどはAI関連チップの開発や利用の手を緩めることはない。今後もAI分野での事業運営体制を強化する戦略を明確に示しているからだ。知的資源集約型のソフトウエア開発が、米国で集中的に進められるだろう。

 一方、製造拠点は分散が急務である。特に、台湾辺境の緊迫化はインパクトが大きい。IT先端企業は地政学リスクの分散に取り組みつつ、安定的なAI対応チップの調達を確立する必要がある。そこで、重要性が高まるのがわが国だ。

 今のところ、日本を取り巻く地政学リスクは大きくはない。人材は不足しているものの、水の利用に関して深刻な問題は顕在化していない。そして、半導体製造装置や、超高純度の関連部材分野では世界的な競争力を発揮する日本企業がいくつもある。

 この点に着目し、TSMCや米マイクロン・テクノロジー、台湾PSMCなど、世界の大手半導体メーカーが日本への直接投資を積み増している。熊本県ではTSMCが回路線幅3ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)の先端製品の生産を検討している。北海道ではラピダスが米欧企業などと連携し、回路線幅1ナノメートルのチップ製造を目指している。いずれもAIの利用に欠かせないものだ。

 AI関連分野での需要を取り込み、成長につなげようとする国内企業も増えている。半導体製造装置の分野では、研究開発を強化し、製造設備への投資も積み増す企業が増えている。その上で、ラピダスなどが先端チップの供給を実現できれば、わが国の経済にとって自動車に続く新しい産業の柱を育成できるかもしれない。

 世界経済の減速に懸念が高まる中、わが国の半導体関連企業は人材の獲得と育成を加速し、持続的かつ加速度的に製造技術に磨きをかける必要がある。政府がしっかりと民間企業のリスクテイクを支援することができれば、日本が潜在成長率の向上を目指すことは可能だ。