富裕層必見! 資産防衛&節税術Photo:PIXTA

M&A市場は極めて活発である。報道によれば、M&Aの年間の取引件数・取引金額は、2025年に過去最高を更新した 。一方、件数・金額の増加に比例して、本連載『富裕層必見! 資産防衛&節税術』第6回で解説したM&A実行「前」のトラブル(紛争)のみならず、実行「後」のトラブル(紛争)も増加傾向にある。そこで本連載の第11回では、紛争事態が生じることがないよう、M&A実行後によく問題となる場面と、“売り主”側の対策・注意点について解説する。(岩崎総合法律事務所代表弁護士・シニアプライベートバンカー 岩崎隼人)

「振り込まれて終わり」ではないM&Aの現実
クロージングは紛争リスクの新たな火種に

 M&Aにおいて、譲渡代金が振り込まれる「クロージング」は、エグジット成功に向けた大きな節目である。しかし、それは「ゴール」ではなく「通過点」にすぎない。クロージングした「後」に発生するトラブルは決して少なくないのが実情である。

 事業承継の総合支援サービス「RISONAL(リソナル)」を運営するオーナーズの調査によれば、経営者が経験したM&Aトラブルの内容として、以下の項目が上位に挙げられている。

<1>取引後に損害賠償請求を受けた
<2>最終交渉の土壇場で価格の引き下げを要求された
<3>経営者保証を解除してもらえなかった

 特に注目すべきは、トラブルを経験した経営者の約5人に1人が挙げている、<1>の「取引後の損害賠償請求」である。

 M&Aの経験が豊富な買い主は、契約書に定められた「表明保証」などの条項を精査し、譲渡後に発覚した事情などを理由として、事実上の価格引き下げを迫る場合がある。

 売り主としては、多額のキャッシュを手にした安堵感から、実行後のリスク管理をおろそかにしがちである。しかし、獲得した対価を確実に守り抜き、次なるステップ(平穏なリタイア生活や新たな起業など)へ進むためには、契約段階から「実行後」の紛争を逆算した対応が不可欠といえる。

 前述のオーナーズの調査において、「M&A後に『こうしておけばよかった』と後悔した点」との問いに対して、最も多かった回答は、「契約書の内容をもっと丁寧に確認し、十分な契約交渉を行えばよかった」であり、次いで、「もっと多くの支援者や専門家の意見を聞いておけばよかった」という声が続いている。

 そこで次ページでは、エグジットを果たしたオーナーが、獲得したキャッシュを失わず、平穏なリタイア生活や新たな起業へと進むための「実行後」の防衛策を、弁護士の立場から解説する。