元自衛官・五ノ井里奈さんに対する性暴力事件の発覚を機に、自衛隊内で行われているハラスメント調査が「特別防衛監察」だ。組織内の自浄作用を働かせる健全な試みだといえるが、実は現職自衛官からの評判があまり良くない。その「思わぬ弊害」と、自衛隊内で自浄作用が働かなくなった場合の「恐るべき末路」を、防衛省出身のジャーナリストが解説する。(安全保障ジャーナリスト、セキュリティコンサルタント 吉永ケンジ)
五ノ井さんに対する性暴力事件は
加害者だけでなく「陸自」の問題だ
陸上自衛隊(陸自)の元自衛官・五ノ井里奈さんに対する性暴力事件を巡って、福島地裁は12月12日、わいせつな行為をした男性自衛官3人に「懲役2年・執行猶予4年」の実刑判決を下した。
自衛官としての仕事に誇りを持っていたにもかかわらず、男性自衛官に囲まれ、わいせつな行為をされた五ノ井さん。本稿ではあえて被害の詳細を記載しないが、その胸中を想像するといたたまれない気持ちになる。
一方、性暴力に手を染めた男性自衛官も、ある意味では「部隊を統率できなかった指揮官・幹部自衛官のせいで、人道から外れてしまった被害者」だという見方もできる。
こう書くと「男性自衛官を擁護するのか」と捉えられるかもしれないが、決してそうではない。この事件は彼ら個々人の問題だけでなく、陸自の「組織的問題」でもあるということだ。
なお、筆者は防衛省出身であり、かつて30年以上にわたって対スパイ活動や海外情報収集などの最前線に従事してきた。そのため、今も自衛隊には人脈があり、知人が在籍している。
そこで筆者は冒頭の判決を受け、知人の陸自幹部自衛官に見解を聞いた。すると、この人物も「男性自衛官だけでなく、組織に問題がある」という筆者の意見に同意してくれた。その内容を以下に記す。
「私もそう思います。おそらく、中隊長以下の幹部が、古参や若い隊員にグリップを効かせて(掌握できて)いなかったのでしょう。そもそも、連隊・大隊・中隊の指揮官が規律を確立して部隊を掌握していれば、事件は起きなかった。今回は性暴力を行った隊員だけが処罰されますが、根本的な責任は中隊長にあります」
この知人は普通科連隊(歩兵部隊)の中隊長経験者であり、陸自におけるマネジメントの重要性を知っている。そのため、五ノ井さんが所属していた部隊の幹部に対する物言いは辛辣である。部隊の雰囲気や隊員の行動は、指揮官によって良くも悪くも大きく変わるからだ。