中部地方の廠舎中部地方の廠舎。べニヤ板の壁はボロボロで、一部が剥がれ落ちている。自衛隊員たちは古い毛布と寝袋などで、隙間風に耐えながら就寝する

自衛隊施設の約8割が
防護性能を有していない

 筆者はこれまで、老朽化した自衛隊施設について、さまざまな官舎、隊舎、庁舎をレポートしてきた。

 剥がれた床や壁、さび付いたドア、昭和の遺物となったバランス釜と狭い浴槽など、自衛官の老朽化した官舎。劣悪な生活環境を強いられると、隊員の帰属意識の低下を招く。それが人材不足、中途退職の要因へとつながっていく。

 実際、自衛隊員の募集は過去10年以上、定員割れを続けている。昨年の自衛官候補生は募集定員の4割近くまで応募数が激減した。

 防衛省の人的基盤の強化に関する有識者検討会によると、2021年度の中途退職者は5742人。これは陸上自衛隊の北海道にある第7師団の人員数に匹敵する。戦時中でもないのに1つの師団が消滅するほどの退職者が出ている状態は、もはや国家存亡の危機にあるといってもいい。これで有事に自衛隊は十分に戦えるのか、不安でしかない。

 22年12月に政府が安保関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を閣議決定し、防衛力の抜本的強化を掲げてから、約1年がたつ。防衛力整備計画における施設整備費では、自衛隊施設の持続性・強靱(きょうじん)性の強化を図るため、5年間で約4兆円の予算が充てられる予定だ。

 現在約2万3000棟ある自衛隊施設のうち約4割、9900棟が旧耐震基準時代の建物だ。さらに、自衛隊施設の約8割は、防衛施設が保有すべき防護性能を有していない。情けないがこれが自衛隊の実情だ。

 生活環境の改善に加え、有事や大規模災害に備えた自衛隊施設の強靭化は急務である。