国や地方自治体などの公的機関が、その行政業務を行うために必要なコンピューターシステムを共有するための仕組みである「政府(ガバメント)クラウド」。昨年11月、その提供事業者に初めて国内企業が選ばれたが、デジタル庁関係者は「日本企業の参入を妨害する」障壁があるという。(イトモス研究所所長 小倉健一)
米IT大手の独壇場に
日本企業がついに参入
日本のデジタル産業に、ものすごく大きなニュースが飛び込んできた。「政府(ガバメント)クラウンド」のシステム提供事業者に、国内企業「さくらインターネット」が初めて選定されたのだ。2025年度末までに技術要件をすべて満たすという条件付きでの選定となる。
「ガバメントクラウド」とは、国や地方自治体のような公的機関が、その行政業務を行うために必要なコンピューターシステムを共有するための仕組みのことである。現在、それぞれの行政機関が自分たちだけの個別のコンピューターシステムを持っているが、ガバメントクラウドを利用することで、これらの機関はシステムの運用にかかる費用を減らすことができる。普通のクラウドサービスとは異なり、ガバメントクラウドは特にセキュリティーが高く設計されている点が特徴である。
これまで、このガバメントクラウドの提供事業者は、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を中心とする米IT大手の独壇場(というかほぼAWS1社の独壇場)で、〈多額の費用を米側に支払い、国際収支を1.6兆円も悪化させる要因になっていた〉(産経新聞・2023年12月5日)という。
国家機密にあたる情報を
アメリカ企業が握る危うさ
貿易の収支だけではない。安全保障上の観点からも、いくらアメリカが同盟国だとはいえ、国家機密にあたる情報をアメリカ企業に握られてしまうのは、非常に危険だとされている。
例えば、ヨーロッパ(EU)では、ガバメントクラウドを2種類に分けて、公開情報などの比較的セキュリティーを考えなくてもいい情報については、自由競争に任せて安い運営会社を選定している。結果として、AWS、マイクロソフト、グーグル、オラクルなどのアメリカ企業が、そのセキュリティーの低い分野でのガバメントクラウドを運用している。しかし、個人情報、国防、外交機密などセキュリティーを高くしないといけない情報については各国が自国企業を選んでいる実態がある。
日本は、アメリカと同じように、というとかなりの誤解を生むのだが、セキュリティーの高い分野も低い分野もアメリカ企業がガバメントクラウドを運営してきた。しかし、いくら「同じ」といっても、日本はアメリカではない。アメリカの企業は当然ながら日本よりもアメリカの法律や行政に従う実態がある。